今日の「中国昔話」はまず、「盧氏雑説」という本から「揚げたあんまん」という小話です。
馮・給事(隋・唐代以後、天子の詔勅を審議する要職)が時の宰相に呼ばれ、その屋敷の玄関についたときに、赤い服をまとった老人が玄関の横に立っていた。馮・給事は「何だ?この老人は」と思ったが、はやく宰相に会うため急いで中に入った。そして宰相といろいろ公務をかなりの時間相談したあと、自分の屋敷に帰るため玄関を出ようとしたが、なんとそこにはかの老人がまだ立っていた。もう日が暮れそうなときだったので、いくらか気の毒に思った馮・給事は、一体何の用で長い時間そこに立っているのか、老人に聞いてみた。
「これは、これは給事さま。実は私めは、尚食局(食事などをあつかう部門)のもので、大事な用事で宰相さまにお目通りを願っておりますが、まだお会いできないのでここで待っております」
「それは、それはご苦労なこと」
と馮・給事は、屋敷の玄関の外で年老いた尚食局のものが、大事な用事で待っているので早く会ってやるよう給事の自分が言っていると宰相に伝えるようこの屋敷の役人に言いつけた。しばらくしてその老人は屋敷の中に入っていったが、そのとき馮・給事は玄関で、私用のためここに来た友人に出会ったので、立ち話をしたあとそこを離れようとしていると、かの老人が用を終えホクホク顔で中から出てきた。そしてそこには馮・給事がまだいたのを見つけた。
「これは、これは給事さま。まだここにおいででございましたか。今日は、給事さまのおかげで、やっと宰相さまとお会いでき、用事を済ませることが出来ました。実にありがとうございました」
「いや、いや。たいしたことはしておらん、礼には及ばぬ」
「わたしめはこれまで長いこと厨房で働いておりましたことから、少しはお口に合うものを作れると思います。給事さまはどこにお住まいでしょうか?」
「いや、ああ。親仁坊じゃが」
「そうでございますか。どうでございましょうか?材料はわたしめが揃えますので、明日にでもわたしめがあなたさまのお屋敷にまいり、あなたさまとご家族のみなさまにお口にあうものを作って差し上げたと思います」
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