「これでわたしたちもいい暮らしが出来るようになるよ」
「そうだな。これだけ金があれば一生楽することが出来るというもの」
と農民夫婦は喜んでいた。
そして妻が言う。
「ところでさあ。あんな剣がどうして金1千で売れるんだろうね」
「そうだな?おいらにもわかんねえけど。それだけ値打ちがあるんだろうよ」
と農民は家に入って剣を包んである袋を庭に持ってきた。そして袋を開けて件を取り出し、鞘から剣を抜いてみると、月の光で剣は輝いて見える。そこでためしにと農民は庭のわきにある大きな石を剣で軽く叩いてみたところ、その石は包丁で豆腐を切ったように真っ二つになった。
「うわ!これはすげえや。なるほどあの商人が金1千を出してこの剣を買うはずだ」
といい、喜んだ二人は剣を大事にしまいこんだあと寝てしまった。
さて、次の日、約束どおり商人が金を持って農民を訪ねてきたので、農民はさっそく剣を渡した。そこで商人は剣を鞘から抜いてみた。
「うん?この剣は違いますな。昨日の剣は?」
「昨日の剣だって?家には剣はそれしかないよ。困るね。約束とは違うんじゃないか?」
「いや。昨日見た剣には普通の人には見えない光があったが、この剣にはその光がない」
「え?それはない。確かにこの剣だ。まちがいない。あ、そうだ。実は・・・」
と農民は昨夜の庭での出来事を商人に話した。
「なんですと?この剣で石を真っ二つにしたですと?」
こういった商人は、剣をもう一度じっくりみたあと、急に肩を落とした。
「あ~あ~。もったいない。使い物にならん剣になってしまったワイ。それも庭の石を切って終わらせてしまったとはな」
「え?使い物にならない剣になってしまっただと?」
「仕方がないですな。こうなったからにはお話しよう。この剣は山を切り破る剣といいましてな。それも一度しか使えんのですよ。この剣はかの光を失っていて、今ではただの鉄の棒みたいなものですよ」
「ええ?今ではただの鉄の棒みたいなものだって」
「では、わたしはこれで帰りますよ」
「ちょっと!ちょっと、まった!それは困る。それは困る。商人さん、何とかこの剣を買ってくださいよ。お願いします。お願いします」
農民がこういって跪き、妻も同じように跪いて願うものだから、商人もしかたなく、とうとう銅銭五枚で、この剣を手にし、帰っていったという。
なんですかね、これは?
そろそろ時間のようです。では来週お会いいたしましょう。ごきげんよう!!
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