次のお話です。「三水小牘(とく)」という昔の本から「将軍屋敷」です。
「将軍屋敷」
いつのことかはっきりわからん。河南の許都という町の郊外にある坂の下に、趙という将軍が住んだ屋敷があった。しかし、のちに誰もいなくなり、空き家となったが、そにうちに夜になると屋敷の中からいろんな声が聞こえると近くを通った人が言うので、この屋敷はお化け屋敷だと言われるようになった。
と、ある日、家計に困ったのか、この屋敷の持ち主というものが、この屋敷に住み込む勇気のある人にはこの屋敷を安くで売るという張り紙を町に出した。しかし、町にはそんな肝っ玉の太いものはおらず、誰一人としてこの屋敷には近づかない。それから半月過ぎたある日、游さんという体が大きく、武芸の心得があるという男がとなりの町からひょっこりこの町に遊びに来た。そして街中でこの張り紙をみていう。
「うん?なんだと?お化け屋敷だと?夜になると変な声が聞こえるとは面白そうだな。それにこの屋敷に住み込むのならば、へー?こんなに安い値で売るって?ほー!これはいい。わしはあまり金がないので、手ごろな住まいをほしいと思っていたところ。それに、怖いものなしのわしにお化け屋敷などとはチャンチャラおかしいワイ!」
こう思った游さんは、張り紙に書いてあるとおり、屋敷の持ち主という人の住まいに向かい、自分が屋敷を買いたいと申し出た。
「え?あんたが屋敷を買うというのかね?」
「いかにも。わしが屋敷を買いましょう」
「しかし。あの屋敷のうわさは聞いておられるのかな?」
「聞いておりますぞ?わしは幼いときから怖いものなしで育ってきたものでね。それに武術の心得もありますので、どんなことがあっても驚きませんワい」
「そうでしたか。で、どうでござる?住み心地がどうかを試し見るため、一晩泊まって見られては?」
「そうでござるな。では明日の朝に金を払うということにして、今晩は試しに泊まってみるということにいたしますワイ」
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