こういうことになり、游さんは、屋敷の玄関の鍵だという、実際は使い物にならぬものを手にしてかの屋敷に入った。
「ふふーん。かなり長い間人が住んでいなかったらしく、庭は荒れているなあ。うん、それにしても部屋の中はたいした家具がおいてあるぞ。しかし、埃だらけだ。しかたがない、片付けは明日からにして、今晩は、この応接間で休みとするか。」
こうして游さんは、応接間を簡単に片付け、大きな椅子を床にして寝ることにして町で買ってきた酒と魚を卓上に並べ、屋敷の主からもらってきた明かりをつけて飲み食いし始めた。もちろんいつも腰にしている剣は忘れていない。こうして游さんはかなり飲んだので、そのうちに眠くなり、旅の疲れもあってか、大きな椅子に敷いた布団の中に入り、剣を枕元に置くと、目をつぶり、しばらくして眠り込んでしまった。
さて、どのぐらいたっただろう。庭のほうで何かの音がして応接間の戸がひとりでにギーッと開いた。これに目を覚ました游さんが、急いで枕元に置いた剣を手にして目を細くして庭を睨んでいると、急に何十かの明かりが点り、数十もの気持ちの悪い顔をしたものがどこからか出てきて、庭に大きな机を置き、いろいろは料理らしいものを載せた皿を上に並べ、また酒を運んできたかと思うと、げらげら笑って飲み始めたではないか。
これには游さんは、驚いてその様子を見ていると、飲み食いしていた数人が応接間のほうを振り向いた。明かりの下でこれらのものの顔を見た游さんは、心の臓が口から飛び出るほどに驚いた。
実はこれら振り向いたものどもの目はとても大きく、いずれも赤くひかり、また、鼻は崩れて、口は耳元まで割れており、鋭い牙を出していたのだ。そしてこれら化け物が、一緒に立ち上がり、長い爪の生えた血だらけの両手をかざして游さんを襲ってきたではないか!!
これにはいくらか武芸の心得がある游さんでも、これはたまらんと必死になって応接間の窓から外へ飛び出し、そのまま、どこかへ一目散に逃げていってしまった。
すると、庭の明かりはすべて消え、化け物たちも姿を消し、屋敷はもとのように静まりを取り戻した。
なんでしょうかね、これは?
そろそろ時間のようです。では来週お会いいたしましょう。
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