「竜虎闘」
時は、清の同治年間、広東生まれの江孔殷という人物が、都で長いこと役人を務め、晩年になってふるさと広東の韶関に戻った。この江孔殷、都では宮殿に出入りしているので、いろんな料理を食べていることは言うまでもない。それに役人だというのに、うまいものの作り方にはかなりの興味を持ち、暇なときは屋敷で厨房に入り、いろいろ工夫をこなしておいしい料理を作り、これはいけると思ったときには、家族だけでなく、親しい友人などを呼んでその腕を見せたという。そしてふるさとへ戻った後も、自ら厨房に入ることを忘れず、その上いろいろな本を読んで工夫を重ね、真新しい料理を作り出したことから、広東の韶関一帯ではかなり知られるようになった。
さて、江孔殷はまもなく70歳の誕生日を迎えようとしていた。年はとっても江孔殷のうまいものを作る楽しみとそれを人に楽しませるというこれまでの習慣は変わらない。人が驚くものを作って自分の誕生日に花を咲かせようと思った江孔殷はどんな料理をと何日も考えていた。
「ふーん!わしら広東には蛇料理があるが、これまでの蛇料理ではつまらんからのう?」と江孔殷がある日、厨房にある蛇籠の中の蛇を見つめていると、そこに一匹の猫が走ってきて籠の中の蛇を相手に歯をむき出して脅しをかけている。また、籠の中の蛇はこれには負けんぞとばかり、細長い舌を出し、目を光らせとぐろを巻いた。
「うん?これは面白いぞ!」と江孔殷はその様子を暫く眺めていたが、不意に目を光らせた。
「そうじゃ!これはいい!作り方を紙に書いてみよう」と叫んだ江孔殷はにこっと笑って自分の部屋に戻っていった。
さて、江孔殷の誕生日にいつものように多くの親戚や友人が呼ばれた。今日は江孔殷さまはどんな料理を出してくれるのかなとみんなは楽しみにして待っていた。
やがて宴がかなり進んだころに、当の江孔殷が席から姿を消したので、みんなはどんな料理を作って出すのかを今か今かと待っていた。やがて江孔殷が宴席にもどりいう。
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