「実はな。せがれの奴め。若いときに屋敷の下女と出来てしまってな。その上、下女にお前を必ず嫁にすると誓いよった。しかし、のちになってその誓いを破り、妻を娶り、その後は下女を相手にしなくなったので、下女は外で首をつり、なんと閻魔さまに訴えよったのじゃ。そこで閻魔さまは、罰として息子には男の子を授けんのじゃ。おかげでわしも男の孫が出来ずに困っておる」
こういって車の中の人は嘆いた。これを聞いた夏さん、お邪魔しましたといってその場を去った。
翌日、夏さんは謝尚の屋敷を訪ね、この話を謝尚本人に話した。これを聞いた謝尚は、しばらく黙っていた後、暗い顔して「そうであったか。若いときに罪なことをしたからのう。その罰だったのか!なくなった父上にも迷惑をかけたものだ」とため息をついたという。
それから一ヶ月が過ぎたある日の夜、夏さんは江陵で鎧兜(よろいかぶと)をまとい、何かの鋭い武器を持った恐ろしい顔の幽霊が十数もの家来らしき幽霊を連れてやってくるのを見た。
「これはおかしいぞ。何かの病がはやり始めるのかな?」と思った夏さん、この一番前の幽霊に聞いてはまずいと思い、先頭の幽霊が近づくまえに道端に隠れた。そして供となって、少し離れて一番あとについていく幽霊を捕まえた。
「なんだ!?お前は!わしを見ても怖くないのか!」
「わたしは、夏侯弘だよ」
「これは、夏さんでしたか」
「ちょっと聞くが、前のお前たちのかしらの手にしているものはなんだ?何に使うんだ?」
「あれは矛といって、あれで人間の胸や腹を刺すと必ず死にます。」
「うん・・・では、急に胸や腹が痛み出したらどうする?」
「それは簡単。黒い鶏をどろどろになるまで煮て、その汁をのみ、またそれを痛む胸と腹に塗れば死にませんよ」
「そうか。わかった」
「夏さん。わしがこんなことあんたに教えたなんて人に言わないでくださいよ。さもなくばわしはひどい目にあいますから」
「安心しろ。あんたの顔は覚えておく。あんたには悪いようにはしないさ」
「そうですか。それはよかった」
「それはそうと、お前さんがたどこへ行く」
「いまから荊州と揚州に」
「そうか。ごくろう。わたしはこれで」と夏さんはそこを離れた。
案の定、それから数日後に荊州と揚州で流行り病が出たと聞いた夏さんは、さっそくこの二つの地へ向かった。かの幽霊のいったとおり、この流行り病に掛かったものは、胸と腹が急に痛み出し、翌日には死んでしまうという。そこで夏さんはかの幽霊から聞いた処方をみんなに教えたので、多くのものが助かったという。
はい、おしまい。
そろそろ時間のようです。来週お会いいたしましょう。
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