「スヌーカー」というのは、おそらく日本の皆さんには決して耳慣れないスポーツだと思いますが、ビリヤードの一種で、台とキューを使ったスポーツ、いわゆる玉突きスポーツです。で、今中国ではこのスヌーカーのブームといってもいい状況が起きています。
ここ数年、スヌーカーという競技は、中国でますます注目されるようになっています。国際試合で好成績をマークし続けている「スヌーカーの天才」丁俊暉、「美人スヌーカー」、潘暁婷の二人は国民的アイドルとなりました。
スヌーカーはもともとイギリスを中心とするイギリス連邦の諸国で楽しまれていたキュースポーツでした。中国に初めて伝わってきたのは1980年代のことです。しかし、当初、人々がスヌーカーに持っていたイメージは決して上品なものではありませんでした。街角で簡単な木の台が置かれ、その周りに上半身裸の男性たちが囲んでおり、大騒ぎしながら、遊んでいる・・これが中国人にとってのスヌーカーのイメージでした。
今でも、よく地方にいくと、そういう風景が見られます。ビリヤードやスヌーカーといったキュースポーツは、日本とは少し雰囲気が違って、本当に小さな地方の村にも必ずといっていいほど、台があって、村の人たちが集まって、楽しんでいます。それだけ庶民の中に浸透しているということなのでしょうが、同時に、少し品のないスポーツといったイメージが当初のものだったのです。
イギリスでは、スヌーカーはまさに「紳士のスポーツ」だったのです。そして、冒頭でご紹介した丁俊暉と潘暁婷など世界で活躍する二人の中国人選手の影響で、中国では、スヌーカーに対する関心は急速に高まっています。
そんな中、スヌーカーのアマチュア大会が北京で開かれています。北京市スヌーカー協会が主催する「2007市民一万人スヌーカー大会」には、予想を倍以上上回る2万人近くが出場し、熱戦を繰り広げています。
参加者の年齢は9歳から72歳までと非常に幅広いということです。一体、なぜこれほどまでに幅広い年齢層にスヌーカーが広まったのでしょうか。たとえば、この大会に出場しているある選手の話をお聞きください。
「以前はぜんぜんスヌーカーなんて、やるつもりがありませんでしたよ。まじめにこの競技に取り組み始めたのは、実は二年前のことです。やっぱり丁俊暉の試合を見てからやる気が湧いてきました。私の多くの外国人の友人は彼の技術に驚いています。私はスポーツが何でも好きですから、スヌーカーに興味はありましたが、丁俊暉がスターになってから、周りのスポーツファンたちはいつも彼の話題で盛り上がっていたり、テレビのスポーツチャンネルはいつも、彼の試合を放送していたりしますから、いつのまにかスヌーカーの熱烈なファンになってしまったというわけです。」
言うまでもなく、この場合、丁俊暉と潘暁婷の二人は中国の人々に良いお手本を作りました。こういった現象は、スヌーカーだけでなく、たとえばヤオミンがNBAで活躍することで、中国のバスケット人口が一気に増えましたし、アテネオリンピックのテニス女子ダブルスで、中国勢が金メダルをとったことで、その後、テニスブームが起きました。
特に去年行われたスヌーカーのイギリス選手権で、20歳の丁俊暉が9人のベテラン選手を相次いで下し、チャンピオンとなったことは、国民のスヌーカー熱に火をつけました。
さて、ではこのスヌーカーが本当に国民的スポーツとなったのか、というと、そう簡単にはいかないのです。
中国でもスヌーカーのプロ選手たちがいます。ただ国内の賞金はそれほど高くありません。そのため、サッカーやバスケットと異なり、スヌーカーのプロだけでは生活できない、というのが実情でした。これについて、スヌーカー練習場のオーナーである陳さんはこう考えています。
「今は、一般レベルのプロは、一年間に4、5万元の収入があれば、御の字です。彼らは、競技でお金を稼ぐのではなく、普段は、アマチュアの人たちへのレッスンでお金をもらっています。それで試合出場に必要な経費を得るというわけです。ですから、プロとはいっても、月給5000元をもらう人は少ないですね。国内試合の賞金も非常に少なく、一位でも1万元ほどというのが現状ですね。」
一般のプロ選手で、一年間に6、70万円。これだけ稼げれば御の字と・・。賞金が1万元、ですから15万円ほどが優勝賞金となると、決してこれだけで食べていけるものではありませんね。
一般的な選手たちの経済状況はかなり厳しいもののようです。しかし、それだけではなく、陳さんの話によると、彼らは試合に出場するための交通費や宿泊費用など全部自分で負担することから、チャンピオンを獲得してもあまり経済的にプラスにはならないようです。丁俊暉と潘暁婷は極めて少ないスター選手だから、きわめてまれなケースではあります。陳さんによると、最近、自分の子供をぜひ、スヌーカーの選手に、と練習場につれてくる親御さんが増えてきたそうですが、それに対して、警告を発します。
「みんなスヌーカーの良い面だけに目が行ってしまっています。スヌーカーは現在まだオリンピックの正式な競技種目ではありません。国はこの競技に予算を組んでいないため、選手たちの活動はすべて自分で手配しなければなりません。子供にスヌーカーばかりを練習させ、もしプロとして成功しなければ、取り返しのつかないことになってしまいます。」
この陳さんの言葉はもっともで、今のブームに乗って、安易にプロを目指すというのは、よくないのですが、ただ、一流の選手が世界の舞台に出て行って活躍し、それを見た子供たちが、第2の彼らを夢見る・・ということは決して悪いことではないと思います。大事なことは、そういった一流選手の活躍によって、スポーツ選手の活躍の場がどんどん広がって、またそのスポーツ自体の競技人口の裾野も広がっていき、それが結局は中国スポーツの発展に広がっていくということだと思います。
ただそのためには、たとえば、今日取り上げたスヌーカーでも、国内のプロリーグの体制を早く整備するなど、その受け皿づくりは大切です。
で、そういった意味で実は来年のオリンピックは非常に大切だと思います。というのは、世界中の一流選手が一度に北京にやってくる・・それを中国全土の子供たちが間近でみる経験をする・・これによって、いつかああなりたいと夢見る子供たちというのは多くいると思うのです。
もちろん、安易に将来を選んではいけない、というのも確かですが、未来の一流を夢見る子供たちの思いは大切にしなきゃいけない・・そして、その中から、次の中国スポーツ界を担う人が出てくるわけです。
ぜひ中国、というよりも、むしろアジアのスポーツの未来への発展における、大切なワンステップとして、北京五輪をみていきたいなあという気がします。(文章:王丹丹 06/11)
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