中国ファンを育てる「茶館」
中国語を学ぶ者ならば「優しい中国語」を耳にしたいと思うことがあるだろう。西武新宿線の「久米川」駅近くにある「幸運茶館」(042ー392ー6318)では、女老板が日本語と中国語を織り交ぜながら丁寧に茶芸を解説してくれる。ここでは20種類以上の厳選された中国茶に加えて、点心や炒米粉などのフードメニューも用意されている。都会の喧騒を離れた幸運茶館で、店長の高岳さんに聞いた。
久米川の商店街の一角に「幸運茶館」はある。ひとたび中に入れば琴の音色が流れる、ゆったりとした空間だ。席につくなり朱色の中国服の女性が現れた。茶館の女主人、高岳さんである。切れ長の目に翡翠のピアス。天津の伝統版画「楊柳青」から抜け出てきたような古典的美人だ。
高さんは注文した安渓鉄観音の入れ方を実演しながら、これが「飲杯」、「聞香杯」、「茶舟」と茶器の説明をしてくれる。高さんによると、茶器が小さいのは時間をかけて楽しむため。その味わい方は、一煎目は舌の上で転がし、二煎目はごくりと喉を潤す。小さな飲杯は人差し指と薬指にはさみ、姿勢を正して口に運ぶ。中国茶は精神的落ち着きをもたらすもの・・・。高さんの語りは静かだが、その解説は実に細かく、茶芸への愛着の深さが伝わってくる。
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高岳さんは1997年、来日、明治大学の法学部を卒業した。その後は日本で排気施設を扱う企業に就職したが、昨年29歳の若さで茶館の女主人に転身した。茶館のオーナーが子育てで忙しく、代わりに店の切り盛りしてくれる人を探していたのだ。福建省育ちの高岳さんは、幼い時から茶芸をたしなむ家庭で育っており、茶館を開くのは長年の夢。その夢はひょんなことから実現したのである。
「ここを中国文化の発信地にしたいんです」、高さんの小さな茶館にはその思いが溢れている。窓際にはお客さんが自由に手にできるよう、茶芸の解説書や中国語のテキスト、エッセイなどの本が並べられている。
「幸運茶館」の定休日は水曜日。この日の茶館は高さん自身が講師を務める中国語教室になる。授業は個人レッスンが基本で、数百円のお茶代も含めて1時間2000円。余りにも良心的な授業料で、こちらが心配になってしまいそうだ。
茶館では中国の民族楽器のミニコンサートも開いている。上演するのは楊琴の演奏など。だが売り出しているチケットは茶館に入れる人数のわずか14席分。チケット代はすべて演奏者の出演料になるから、高さんの利益はない。「この茶館は儲けにはならないから、給料少ない。でもマイナスじゃない。よく通ってくれるお客さんに支えてもらっているんです」。日本人にこれまで知らなかった中国文化と出会ってほしい、だからこの仕事はすごく楽しい、高さんは繰り返しそう語る。
「優しい中国語」を聞きたくなったら、美しい女老板のいる「幸運茶館」を訪れてみてほしい。高さんのご両親が福建から送ってくれる甘い香りの茶を楽しみながら、きっと話に花が咲くことだろう。(満永いずみ)
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