今日は、ある雑誌に関する話題です。今年1月、「中国日企」という月刊誌が創刊されました。「日企」とは「日本企業」のことです。つまり、中国に進出している日本企業に関する情報誌です。この月刊誌は中国語で書かれ、読者ターゲットは中国人です。「中国日企」は北京世研伝媒広告有限責任公司という、データ調査などを行っている会社が発行しており、発行部数は毎月1万部にのぼります。日本企業の発表した最新商品に関する記事やデータなども載っている、専門的な雑誌です。
この雑誌の創刊のいきさつについて、「中国日企」の唯一の日本人編集スタッフ・駒崎絵美さんは次のように答えてくれました。「私達の会社は、もともとデータなどを扱う調査会社だったんです。クライアントが日本企業であることが多くて、日本企業の消費者調査とか、日本企業がメディアでどんなふうに取り上げられているのかということを分析していたときに、日本企業が中国で一生懸命PRしているにもかかわらず、あまり中国メディアで取り上げられていないというデータ分析が出ることが多かったんです。これは、中国社会が日本についてあまり報じない傾向があると同時に、日本側にとっても広報ベタというか、「隠匿」と言って、「言わずが華」というところが文化にあって、そこが中国社会とあまりマッチしていないんじゃないかなということになりました。日本企業が中国社会でこういう活躍をしている、ということを、さりげなく、第3者の立場として、中国社会に伝えられればいいなと思い、この雑誌を作るようにしました。」
現在、中国に進出している日本企業は多く、商品もたくさん売られていますが、確かに企業の個性が見えない部分はあります。たとえば、日本企業は中国国内でさまざまな社会貢献事業を行っています。貧困地域の子供達を援助したり、砂漠の緑化活動をしたり、日本企業はかなりの投資を行っていますが、そうした取り組みはあまり知られていません。日本企業がそうした活動をほとんどPRしていないからです。それは、確かに駒崎さんがおっしゃった「言わずが華」の文化です。「身内のことをほめない」、「自分達のやっていることを誇らしげにPRするのが恥ずかしい」みたいな部分があります。中国では、これは適用ではありません。中国人は逆に主張する文化ですから、どんどん言ってもらわないといけません。
この雑誌は現在、主に中国全土のメディアへ配布されています。駒崎さんは「中国メディアのバックには中国社会があります。そこのつながりを緊密にすることで、お互いの社会が情報の壁を取り除きたい。日本企業は何のためにいるのかが、中国人には見えていない。商品ばかりに目がいって、企業イメージが出てこない。顔が見えない。雑誌を使ってそれを取り除けていければ」と語りました。中国の記者から好評だそうです。
駒崎さんは、唯一の日本人編集スタッフですが、取材や編集に奔走する毎日です。日本企業と中国社会のパイプ役になるべく、日々模索していらっしゃいます。
駒崎さんは昨年10月北京に来たばかりです。中国に来ること自体はじめてで、中国語もまったく分からない状態だったそうです。中国との出会いについて駒崎さんは、「もともと小さい頃から国際的な仕事がしたかったんです。戦争がおこらない平和な世界にしたかった。メディアが、争いを生み出す道具ではなくて、争いをなくす道具であってほしいと思っていたのですが、その研究課題を汲み取ってくれた大学院の先生がいました。その先生は、中国で新聞記者をやっていた方で。もともと中国人の友達も多かったし、友達のことを理解するためにも、研究テーマを日中メディア比較にしました。やっぱり一度は中国に来てみないと、中国のことは分からないと思っていたときに今回の話をいただいて、これはチャンスだと思って飛び込んできました。」と話しています。
右も左も分からない状態だったそうですが、北京生活も7ヶ月目に入り、最近では生活を楽しむ余裕も出てきたそうです。趣味はビデオカメラで、休みの日はビデオ片手に街へ出て、北京の表情を撮影して回っています。そのフットワークの軽さで、これからも取材活動を頑張りたいとのことです。
インタビューの最後に、日本と中国の関係について、駒崎さんの意見を伺いました。駒崎さんは 「相手のことを理解していない。日本は、日本風のものをそのまま持ち込もうとする。中国は、日本風のものを理解しようとしない。日本のお客様から要望を受けるとすごくこまかい。中国人のスタッフに伝えたら、それに答える必要はないと言われる。板ばさみになってしまうが、いい中和剤になれれば。お互いが、こっちの文化はこうなんだから・・・という歩み寄りがあれば、少しは無駄がなくなるのでは」と語ってくれました。
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