「マッサージに行くと良いですよ。良いお医者さんがいるから」
日本語部の中国人スタッフが何気なく言った「マッサージ」という得体の知れないことばに二の足を踏んでいたものの、積年の痛みに我慢できず、出かけてみて驚いた。マッサージとは、自分が日本にいたときからできれば治療を受けたいと思っていた整骨治療と同じらしい中国医学、「正骨」だったのである。しかも効いた。いや、今も治療を続けているのだから、効き続けている。
肩の痛みは4年前の夏、突然起った。いきなり、首筋から左肩にかけて痛みが走って、腕が上がらなくなったのである。長年のストレスが肩に出たのだろうという人もいた。2,3日経っても痛みは治まらず、電車で1時間半かけて、都内の著名な整形外科病院に通い始めた。
個人経営ながら全国から患者が来るという病院はいつも混雑し、1時間待たされるのは当たり前、医師の診察は1分ほど、それから5分ほど機械で首を牽引してもらっておしまい。自己流で首を動かしたりせず、安静にせよというのが医師のことばだった。電車1時間半、待ち時間1時間以上、診察1分、牽引5分、薬はなしという治療を週2回、1ヶ月ほど続けるうち、馬鹿馬鹿しくもあり、なんとなく治まった気もして通院するのをやめてしまった。
それから、4年間、首、肩の痛みは季節を問わず時折現れ、その都度、首を回したり腕立て伏せをしたりしてやり過ごしてきたのである。痛みも4年抱えていれば持病のようなものだ。大げさに言えば、このまま痛みとさよならすることは永遠にないのではないかと思っていたほどの時、本場で本物に出会ったのである。
羅金印医師は67歳、中国テレビラジオ総局クリニックの中医正骨科の医師である。こちらはことばが分からず取材できないのだが、日本語部の同僚からわずかに得た情報によれば、羅さんはこの世界では相当名の知られた人で、中国の要人が海外に出かける時は医師として同行したり、日本からも著名人がわざわざ羅さんの治療を受けに来たりするほどだという。今は、31歳になる息子さんもこのクリニックで医師として働いている。
羅さんの治療は何も特別ではない。日本の整形外科と同じように、まず、レントゲン写真による首の骨の診断から始まる。診たては頚骨の間隔が狭くなって隙間がなくなり、骨の形もやや変形して神経を圧迫しているということだった。原因は蓄積疲労と老化だろうという。日本の整形外科と同じような診断だ。だが、異なるのは、患者に首を動かすなと言わず、自分で運動をしたり、首を動かしたり伸ばしたりするのを勧めることだ。自分で治そうとすることも大事だということだろう。北京の街角の公園では、大勢のお年寄りが熱心に体を動かしている姿をいつも見かけるが、これも、中医学の考え方が浸透しているからかもしれない。
診察を受ける人たちはやはり年配者が多い。職場の仕事の合間を見て訪れる働き盛りの人もいる。やはり、首や肩、腰の痛みを訴える人が多いようだ。羅さんは、治療に当たっては、どの患者にも同じように、両手で首筋や肩や背骨の位置を確認しながら、まさに骨を正しい位置に誘導するようにマッサージをしている。時折両手で患者の首を挟んでひねったり、肩を抱え込んで体を回したりすることもあるが、痛みを感じることはほとんど無い。自分の首がボリッと音を立てるときはむしろ気持ちが良いほどだ。そのように15分ほどマッサージを受けた後、痛む個所に電流を流して刺激する処置をやはり15分ほど受けて1回の治療が終わる。薬を処方されることはない。
病院を出るときには、もう完治したのではないかと思えるほど、首の痛みが消え、肩が軽くなっている。もちろん、4年間苦しんできた首や肩の痛みが簡単に治るとは思っていないが、週2回の治療を受けてほぼ一か月、確実に良くなりつつあることを実感しながら、伝統ある中医学への信頼を高めている。
(写真、文 満尾巧)
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