写真1契約したマンション
地下鉄の軍事博物館駅から歩いて5分という、私が気に入ったマンションの大家さんとの話し合いは、「外国人には外国人料金」という理由で家賃を倍に引き上げたことから物別れになりました。その後も熱心な不動産屋の若者から、「今説得中。どうも大家さんの考えは大分変わりつつありますよ」という連絡が時々入るものの、その後10日たっても動き出しません。地下鉄の駅から近い上に、バスタブがあるか或いは風呂桶を置けるスペースのある家はなかなか見つかりにくいので、長期化するかなと思った矢先、彼から「同じマンションの違う階の家が管理費込み3200元(日本円にすると5万1000円)で貸しに出ています。明日見に行って問題がなければすぐにでも契約をしましょう。1万6000元(25万6000円)用意してください」との連絡が入り、急な展開になりました。しかしチョット待てよ。中国の場合、現在はキャッシュカードでは一日に5000元までしか下ろせない(最近になって2万元まで下ろせるように変わった)。急にそんな額は用意できませんよと言うと、では手付金として6000元を持ってきて欲しいということになりました。
翌日は、いつも来る不動産の若者の他に、彼の上司も一緒について来ていました。後で分かった事ですが、契約を担当している人で、この日にも契約をしてしまおうという魂胆だったようです。待っていてくれた大家さん夫婦は実直な人で、「要望があれば何でも言って下さい。時計も古くなったので新しいものに買い換えます」などと色々と気を使ってくれます。前の家と違ってNHKが見えるパラボラがないことは残念だが、立派な本棚があり、ベッドも新品でスプリングが結構硬いのが良い。「ヨシ決めた!では契約を」ということになりました。しかし3か月分の家賃の他に、それぞれ1か月分の保証金と不動産仲介料合わせて1万6000元がやはり必要だという事になり、近くの銀行に行って下ろせるお金は全て下ろしたが、必要な額には達せず、残りは次回に払うということで、契約を済ませました。兎に角、慌ただしい契約でした。
写真2 マンションからの眺め
「外国人はどうも」という前の大家さんと同じ建物なので、今度の大家さんがその点を気にし始めるとヤバイと考えたのでしょう、早めにまとめてしまおうという不動産屋の戦術でした。ただし今度の大家さんも、外国人に貸すということには一抹の不安は持っていたようで、「何か"国際的な問題"が起きた時には、不動産屋が前面に出て対応する」という内容の誓約書を不動産屋から一筆取って一件落着。私がどんな"国際問題"を起こすというのか、余り気持ちのいい話ではないが、誓約書は大家さんと不動産屋の間で結ぶので、口を出す訳にはいきません。ただしその後大家さん夫婦から直接聞いた話しでは、大家さんの奥さんが以前勤めていた会社は日本企業との合弁会社になったので、日本人とは接触があり、「日本人に貸した方が綺麗に使ってくれる」という考えがあったということが分かりました。
写真3 部屋の様子
不動産屋が居なくなってから大家さんが愚痴をこぼすには、今回の契約時には彼も1か月分の仲介料を取られたと言います。私の場合は、結構熱心に不動産屋が探してくれたお蔭で見つけることが出来たので、1か月分の仲介料は当然と思って支払いましたが、しかし大家さんの場合は、特に不動産屋に委託していた訳ではなく、ネット上に掲載していた情報を不動産屋が勝手に見つけて、話しを持ってきてくれただけ。それなのに、1か月分もの仲介料を取るのはおかしいというのです。大家さんがそう考える背景には、前回の冒頭にも触れましたが、中国の場合は、貸したい人、借りたい人がネットにそれぞれ情報を掲載し、不動産屋を介さずに話しがまとまるケースが結構あるからです。大家さんの愚痴に私は、ただただ「本当にそうですね」と相槌を打つしかありませんでした。
何はともあれ、1ヶ月近くに渡る家探しは無事終了。契約の時も中国の知人に付き添ってもらうこともなく、一人でサインをしました。とは言っても、慌ただしい契約で誰かに頼む時間もなかったというのが実情ですが、しかしそれ以上に不動産屋も大家さんも十分に信用できるという思いがありましたから、頼む必要もないなと感じていました。
写真4 台所
さて管理費込みで毎月3200元(5万1000円)という家賃は果たして高いのか安いのか。「家探しを無事に終了!」と職場の人に報告し、家賃の額を言うと、「高いですね」とみんなに言われてしまいます。「駅から5分」「2002年築」「新品の家具が多い」「南向き」などと良いところを並べて説明しても、「それでも高いですよ」という答えが返ってくる。北京のサラリーマンの平均給与がおよそ3000元という状況から見れば確かに高いのかと思う。ただし比較の対象を北京駐在の日本の大手企業などの社員の家賃と比べると、話しは全く違ってきます。私とは桁違いの月3万元(48万円)程度の家賃のマンションに入っている人もいるのですから。何故そんなに高い家賃を日本企業は払う必要があるのか、もっと安くても結構良いマンションはあるのにおかしいではないかと、人民元で給料をもらっている身としてのひがみ根性も加わって、強く感じた次第です。
写真5 木製の風呂桶
契約が決まったとなると、引越しまでに必ず用意をしなければならないものは、風呂桶と布団類。乾燥している北京で日本人が過ごすには風呂桶は必需品。これまで住んでいた北京友誼賓館には洋式の風呂が付いていました。洋式風呂が元々は好きではなかった私も、北京の乾燥した気候によって干からびたような感じになる体に湿気が戻るような気がして、毎日必ず入っていました。今回は、木製の風呂桶が売っているという話しを聞いていたので、契約の後、早速ホームセンターに行くと、「香柏木」という高級な香木で作られた洒落た風呂桶が売っているのを見つけました。少しまけてはくれたが、それでも2300元(3万7000円)と結構な値段。しかし湯船に肩まで浸かって風呂に入ることが出来るようになるのだと考えると、決して高くはないと即決して購入。ところが実際に取り付けて風呂に入ろうとすると、色々と問題が出てきて、思っていたほど簡単な事ではありませんでした……。(つづく)(写真、文:中村 治)
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