盤錦は、遼寧省の南西部、遼東半島の付け根の位置しています。地元で母なる川と呼ばれる遼河デルタの中心地です。市制施行後23年という若い市です。市としての歴史の浅さは、その産業と大きな関係がありそうです。実は、ここに中国第三の油田があるんです。年間に生産される原油が1200万トンという、遼河油田です。この油田が発見されたのが、今から30年余り前の1973年でした。見つかった油田によって盤錦は急速に発展し、23年前に市が誕生したのだと思います。そのことを確認する機会がなかったので、御免なさいなんですが、きっとそうだと思います。盤錦は遼寧省で一番小さな市ですが、市民一人当たりの可処分所得は、大連に次いで、遼寧省で2番目ということでした。
油田地帯だと石油工業などのイメージが強く、石油によって汚れているのではという心配を感じているのかもしれませんが、これがまるで反対なんですね。遼河デルタには肥沃で広大な水田地帯があります。この町はおいしいお米の穫れる場所としても有名です。水田のない北京から出かけていって、青々と稲の茂った広大な水田地帯を見た時は感動しました。さらに、その周囲には、これまた広大で自然豊かな湿地帯が広がっています。葦に覆われた湿地帯は世界的に知られた丹頂鶴や黒嘴鴎などの野鳥の生息地で、保護区になっています。しかも、海が近い訳ですから蟹や貝や魚などの魚介類も豊富です。つまり、自然や水田地帯の緑と川や海の水が豊かで、食べ物もおいしいということです。お米もおいしかったですよ。街もきれいでした。私たちはバスでこの街に入ってほんの一部を見ただけですが、環境保護を大きく掲げたエコロジー都市宣言をしていて、街路樹や公園、 花壇なども隅々まで整えられた清潔な街という印象でした。
人口120万人です。その上で、「5点1線」の一つの、大規模な開発プロジェクトが進められているのは、盤錦の街から離れた遼河の河口付近に石油関連企業を中心とした産業基地と、造船所を中心とした船舶修造基地を造ろうというものです。河口部に第2の盤錦の工業都市を造るようなものです。
石油はまさに盤錦の柱です。ただ、石油資源には限りがありますから、将来的に持続可能な発展を目指して、新たな産業の開発や誘致を進めています。高さ30メートルはありそうな鉄塔の形をした大型石油掘削機の製造を行っている所も見学しました。ここでは、すでに年間40基の掘削機を他の産油国に輸出しているそうです。その他、石油化学、プラスチックやエチレンの生産などにも力を入れるということでした。水の豊かさ、環境の良さもあいまって、国内企業はもちろん外国企業の参入も順調だということです。
観光客にとって気になるのは、野鳥の保護地の湿地帯ですが、湿地帯を見るには見たんですが、正直に言えばそれこそほんの入り口付近といった方が良いでしょうね。場所は、海岸部近くの広い湿地帯で、一面に高さ2メートル以上の葦が茂っていました。海岸部ですから潮が満ちてくると湿地帯は海水に浸かるんですね。そのために、葦原の中に木道が設置されていて、観光客はその上を迷路を歩くようにめぐって行くんです。あまり高い場所がないので、全体を見渡せなくて、どれぐらいの広さなのか分かりませんでした。ここは、盤錦名物のおいしい蟹の生息地でもあって、潮の引いた泥地の上に甲羅の大きさが3センチほどの小さな蟹が本当にわらわらとたくさんいました。
今はこの蟹を養殖しているそうですが、私が食べたのは、蟹味噌などのエキスを煮て茶碗蒸しのようにしたものでした。なかなか濃厚な味でおいしかったですが、蟹が本当においしくなるのは秋になってからだそうです。
さて、話がつい横道にそれましたが、野鳥の話に戻ります。木道のそばに丹頂鶴の模型が置いてあったのでガイドさんに聞いてみたんですが、残念ながら、この辺りでは本物は見られなくて、もっと湿地帯の奥のほうにいるということでしたね。でも、自分の目に入っただけでもツバメ、カモメ、サギ、ヨシキリ、カッコウなどなどを確認しました。特にヨシキリのギョウギョウシギョウギョウシと鳴く声が賑やかだったのが印象的でした。いずれにせよ、盤錦の葦に覆われた湿地帯は1280万ヘクタールという、数字を聞いただけではぴんと来ないんですが、世界最大の葦の湿地帯で、私たちが見ることができたのはそのほんの一部ということですね。
ここの保護区で確認される野生動物は400種類あまりで、そのうち鳥類は260種類ぐらい、水鳥の数は100万羽に上るそうです。しかも、国家級の保護鳥も丹頂鶴や黒嘴鴎などが30種類も含まれているということです。保護区には、毎年世界中から大勢の研究者や野鳥愛好家、観光客が訪れているそうです。
今回の訪問で話を聞いた市の関係者のことばがとても印象的でした。「湿地帯は石油以上に大切です。石油には限りがあるが、環境の大事さには限りがありません」というんですね。僕は、今行われている開発プロジェクトが少し心配な気もしていたんですが、盤錦の市民がそういう気持ちを持ち続ける限り、盤錦はますます豊かで美しい都市になると思いました。(満尾 巧)
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