重慶の湖広会館は長江と嘉陵江が合流する重慶半島にあり、中国に現存する最も大きな会館建築群で、広東公所、禹王宮と斉安公所を含む三つの部分からなっています。「湖広」というのは、昔の中国にあった地名で、時代によって、範囲が変わります。元の時代に、湖広行中枢省という省があり、これには、今の湖南省、湖北省、広東省、広西チワン族自治区、それに、貴州省の一部が含まれていました。その後、明、清の時代になって、湖広行省という省がおかれ、これには湖南省と湖北省だけがありました。三百年前に建てられた湖広会館は、明、清時代の重慶の移民の歴史と商業の繁盛を見守ってきたのです。
禹王宮は湖広会館にあるメインの建物です。各地の会館に欠かせないのは、祭る神様です。地方によって、祭る神様が違います。湖北省と湖南省は水害が多かった地域で、禹王宮には洪水を鎮めた大禹が祭られています。
かつて、重慶半島には規模の大きい会館が八つ、小さい会館が数多くありました。会館がここに集まったのは交通の便のほかに、風水の考え方もかなり働いたと言われています。ここは正門を出ると、すぐ長江が見え、左へ行くと、朝天門港があります。風水の考え方によって、前に照らすものがあり、後ろに頼るものがあるのです。前の河の水が反射して、縁起がいいとされたわけです。
現在の湖広会館は、博物館、歴史復元区域、それに体験区域に分けられています。博物館では、三百年前の「湖広填四川」と呼ばれる人口大移動をもとに、資料と実物で移民の歴史を紹介しています。
歴史復元区域では、会館の機能を紹介しています。会館は中国の同じ郷里を持つ文化人や商人、或いは同業者の組織が建てたもので、宿泊場所、会館、舞台などの施設からなっています。ここは、行き来する商人や科挙受験のためふるさとを出た人たちに食事や宿泊など身の回りの面倒を見るだけではなく、ふるさとの祭祀やイベントなどを行う場所でもありました。歴史復元区域では、昔の同郷者への援助、科挙試験合格祝いやふるさとの事情を歓談する場面を塑像で表しています。
昔、会館には必ず舞台がありました。会館でふるさとの地方劇を観ることは異郷にいる人々にとって、最大の癒しになったかもしれません。今、ここには大小二つの舞台しか残っていませんが、時々芝居などを上演しています。
今、見られる湖広会館は2003年に修復したものです。もともとある部分をそのままにして、欠落した部分に、資料を参考にして新しく付け加えましたが、特に鮮やかな色使いをしたので、どこが古いもので、どこが新しいものかすぐわかります。このような工夫をしたのは、文化財保護の意識をより一層持ってもらうためだと関係者が話しています。 (原稿:東)
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