北京にはちょっと特殊な博物館、京城百工坊があります。そこは、様々な民間工芸品を収蔵・制作しているところです。
京城というのは、中国語で都、首都の意味ですから、北京のことです。また、百工坊は、たくさんの手芸品を作る工房ということですから、この博物館のことを、北京百工房と訳してみたいです。博物館の館内には、宮廷刺繍や玉細工、漆器、及び切り紙など千種類あまりの工芸作品を展示し、実際に作ってもいます。世界観光機関のエリク・デュルック事務局長は、百工房を見学して、「中国のルーヴル」だと賞賛しました。
場所は北京南東部の崇文区光明路にあります。タクシーで行く場合は、「体育館」のバス停で降りれば、すぐ分かります。
この博物館に入ると、およそ5万平米のホールに、職人たちの工房がが30あまりあります。これらの工房で作っている伝統的工芸品は、主に宮廷工芸品と民間工芸品の二種類です。百工房のスタッフ陶冶さんの話です。
「百工房はちょっと変わった博物館です。我々はただ物を並べて来館者に見てもらうのではなく、職人やその弟子の実演という展示方法を取っています。来館者は職人と直接話が出来るんです。」
現在、百工房に展示されている伝統的な宮廷工芸品は十数種類あります。そのうち、宮廷刺繍が代表的なものです。宮廷刺繍というのは、皇室や貴族の服装用に特別に作るものの意味です。宮廷刺繍を50年近く作り続け、今年66歳の姚富瑛さんの話です。
「大まかに言えば、宮廷刺繍はすべての模様に意味があり、その意味は必ずめでたいものです。ですから、一本一本の線からなる絵には、それぞれ文化的な内面が読みとれます。これは宮廷御用達のものの特徴です。」
一つの宮廷刺繍の作品は十数以上の工程があります。初めから終わりまですべて一人でやり遂げるものです。一人前の職人が皇帝が着用する竜の模様を刺繍した長着と呼ばれる衣装を一着完成するために、少なくとも二年かかるそうです。宮廷刺繍の職人、姚富瑛さんの話です。
「昔、針仕事、特に皇帝の長着を縫う時は、必ず金糸でやらなければなりませんでした。その金糸は手作りの非常に細いものです。また、中には、アクセサリーとして、真珠や珊瑚などをふんだんに縫い込めなければなりませんでした。」
時の最高権力者の衣装ですから、特別の物を使って作り上げる必要があったわけですね。すばらしい工芸品の裏には、職人たちの地道な努力が隠されています。昔の工芸品を眺めるとき、現代人の私たちが、昔の職人たちと、コミュニケーションできるような気もします。また、コレクションの面白さはそこにあると思います。
さて、刺繍のほかに、玉細工や漆器などの宮廷工芸品も有名です。漆器と言いますと、この間見たテレビ番組では、漢の時代の貴族の陵墓が発掘されて、そこから出土したものの中には、漆器もあったことが紹介されていました。漢の時代ですから、今からおよそ2000年ぐらい前のことですね。2000年経っても、その漆器はまだ鮮やかな色彩を保っているなんて、これはすばらしいと思います。
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