イスラエルのシャロン首相は脳出血で重篤状態となり、中東情勢は混迷を増しています。
ここ数年、シャロン政権の外交政策はイスラエルとパレスチナの関係及びアメリカの中東政策を主導しています。しかし、シャロン首相の容体が重篤であることから、パレスチナ・イスラエル情勢は混迷を増してきました。
イスラエルには、党派が多く、各党派はそれぞれ強い政治目標を掲げており、これまで単独で組閣できた例はなく、政府首脳の更迭は頻繁で、パレスチナ政策では社会全体が共通した認識に達したことはありませんでした。
中道左派とされる労働党はパレスチナ領土からの撤退による分離を政治的理念としており、これはイスラエルの根本的利益に合致しているものの、様々な政治的障碍によってその実現は非常に困難なのです。
また、アラブ世界の一部の人はシャロン首相を「殺人鬼」として非難しており、一部のパレスチナ人はシャロン氏の死去を望んでいますが、一方では「パレスチナ人にとって生きたシャロン氏がもっと有利だ」との見解もあるのです。
また、多くの人は「高齢であるが、イスラエルとパレスチナとの和平を実現させる第一人者はシャロン首相である」と見ています。
一部の政治評論家は「労働党にとって不可能であったガザからの撤退計画をシャロン首相が実施した。その原因はイスラエル国民の理解を獲得し、ユダヤ人の利益を根本としたシャロン氏のその政治家としての人格が民衆の信頼を得たからだ。これはシャロン氏が様々な難局を突破できた後ろ盾でもある。人生の大半を軍隊と政界で過ごしてきたシャロン氏はユダヤ人だけでなく、パレスチナ人をも理解し、政界でのその生存法を把握したとも言える」と見ています。
ところでシャロン氏がいなくなれば、パレスチナ人はその後継者に直面しなければなりません。イスラエル主導という中東情勢の下で、シャロン氏の後継者は今後のパレスチナ・イスラエル情勢に大きな影響を与えることになります。
シャロン氏が旗揚げした新しい政党「カディマ」(前進)はその政治的理念を維持しているものの、シャロンの氏がいなければ、この政党の存在が問題ちなり、総選挙で勝利しても国民の信頼を得るまでには一定の期間がかかるでしょう。
一方パレスチナ自治政府のクレイ首相は「シャロン首相の重篤によるイスラエルの政治的空白を我々は望まず、パレスチナにとっては厳粛的な和平プロセスが必要であり、平和を真に信じるイスラエルの指導者との協議を期待する」と述べました。
シャロン首相の重篤に対し、アメリカのブッシュ政権は中東情勢に関するコメントを控えています。アメリカのこれまでの中東政策の核心は、シャロン首相とイスラエルの一方的撤退計画を支持することであり、ブッシュ大統領とシャロン首相は個人的にも密接な関係を保ってきました。
ですから、当面の情勢を受けて、アメリカのイーグルバーガー元国務長官は「シャロン氏の政界離脱は中東情勢の未来にとって災いである」と見ており、また、ロス元中東特使は「ブッシュ政権には善処の措置がなく、いまは、イスラエルの政局を静観することに止まっている」と話しているのです。
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