杭州市の中心部、風光明媚な西湖の湖畔に中国の美術研究最高峰、中国美術学院がある。
1928年創立の国立高等芸術専科を前身として、北京の中央美術学院と双璧をなす名門校。豊かな緑と澄んだ空気の中で、6000人あまりの学生たちが未来の芸術家を目指して、学んでいる。
4年制の本科と研究科が設けられており、それぞれ絵画、彫刻、美術学などの専攻がある。
中心部に位置する大学だが、7万平米の広々とした敷地と近代的な作りの校舎は息苦しさを全く感じさせない。
ポプラ並木の美しく整備された道路から門をくぐり、キャンパスへ。校舎内に入ると、学生達の作品が所狭しと置かれている。教室では学生らが真剣な表情で作品に向かっている。我々の訪問に、少し会釈して、また作品に視線を戻す。中国芸術界に数多くの才媛を送り出してきた「芸術家の揺りかご」らしく、リラックス感がありながらも、張り詰めた雰囲気も漂っている。
私はこの日、同学院に100人あまりいる留学生の一人、高梨波留加(はるか)さんに出会った。
彼女は彫刻の修士課程で研究を続けている女性彫刻家だ。7年前、中国に渡って、彫刻の研究を始めた。西安や敦煌で目にした石窟の素晴らしさに心を惹かれ、その優れた仏教芸術の真髄を求めて、中国に渡った。今は陶磁器にも興味を持っており、景徳鎮の絵付けの技法をヒントに独自の創作活動に取り組んでいる。
高梨さんは、杭州のことを「創作意欲をかきたてられる街」と表現する。豊かな自然を持つにもかかわらず、経済の急成長に人々に活気があることが、彼女の「新たなものを作り出す」欲求を刺激するそうだ。
同じ中国でも、激烈な競争社会であり、生活リズムが驚くほど速い上海や北京とは、また異なる雰囲気がある。また悠久の歴史と文化に包み込まれた町並みは、れっきとした大都市の風格を備えていて、決して北京や上海に劣らない。昨今の経済成長は、この街に新たな自信を与えている。
高梨さんが面白い話を聞かせてくれた。
ここの学生たちは、この経済成長から、実際的な恵みを受けているというのだ。近年、急増した富裕層はその豊富な資金を惜しみなく、「芸術家の卵」たちに注ぎ込む。美術大学の名門で学ぶ彼らの付加価値は高く、研究生レベルが作った作品は、「結構な」高値で、愛好家たちに引き取られていくそうだ。創作活動には材料費をはじめ、かなりのお金がかかるのだが、作品の引き取り手があることから、安心して、自らの創作活動に取り組むことができるというわけだ。
だが、何よりも高梨さんが最も気に入っているのは「人」だという。杭州の人たちの民族性は、中国大陸らしい大らかさと人懐こさ。「茶農家から新茶を分けてくれたり、近所の奥さんが色々お世話してくれたり」と、杭州人の温かさに囲まれながら、励まされながら、毎日を過ごしているそうだ。この生活を一度体験してしまうとたまらない・・・「なかなか抜け出せない」と高梨さんは笑う。
杭州は「芸術家に優しい」町だと思う。そして、優れた芸術を生み出す土壌は、豊かな文化を育む。杭州の特徴は、勢いよく発展する経済がこれをしっかりと支えている点だ。そして、同時に、古くから受け継いだ奥ゆかしい文化の蓄積もまた、彼らの自信と誇りを与えている。
古い文化を保ちつつ、新しい文化を育てていこうとする土壌こそが、杭州を「幸福な都市」に育てているのかもしれない。
次回のコラムは、中国ではなかなか見えにくい地方行政にスポットを当ててみたい。杭州が住みよい町であり続けるために、行政側がどのような努力を払っているのか・・・市の指導者の取材を通じて、そのユニークな行政手法に触れていく。
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