北京にすむ曹潤興さんは69歳。すでに仕事を定年退職し、今は悠々自適の生活を送っています。曹さんは、先日、ゴミだらけになっていた空き地を花の咲き誇る庭に改造しました。そして他の住民たちと協力して、植樹活動に取り組んでいます。
ここは北京の西側にある「永楽団地」。住民が3万人の住宅です。団地の南西側には小さな庭があります。バスケットコートの半分ぐらい広さの庭に数百種類の花が咲き乱れています。中央には池があり、ニシキゴイが十数匹、泳いでいます。池の周りにはベンチが置いてあります。
春には、この辺りは花のいい香りがします。団地の住民はここに来て、ベンチに座って、咲き誇る花を眺めるのが大好きです。しかし、6年前、ここの景色は今と全く違っていました。当時を振り返って、庭を指差しながら、曹潤興さんが語ってくれました。
「あれは私がちょうどここに引っ越したばかりのときでした。この場所は、ゴミだらけの空き地だったんです。誰も近寄りたくないような場所だったんです。私はここが団地の雰囲気を台無しにしていると思いました。まずはここを片付けること、それが私たちの団地を住みよくする第一歩だと思ったんです。」
それから、曹さんの日課は、毎朝食事のあと、空き地にくることになりました。まずは、草むしりから始めたのです。当時の曹さんは63歳で、家には奥さんと90歳のしゅうとめさんがいて、子供はいません。曹さんの話を聞きましょう。
「だいたい3ヶ月をかけて、草むしりをしましたね。だいたい雑草がなくなったら、今度は土作りです。ほったらかしになっていた瓦などを三輪車で運んでから、土を敷きました。」
曹さんは、土を敷いたあと、今度は、石を取ってきて、小道を作りました。これらの作業のため、三輪車で何回往復したか、曹さんもよく覚えていません。ついに、たった一人で、曹さんはゴミ捨て場のようだった空き地をきれいに整備してしまったのです。その翌年、今度は、そこに花の種を蒔き、さらにベンチを二つ置きました。数十種類の花は、夏に花が咲き誇ります。そして、美しく飾られた空き地には、なぜか前のようにゴミが投げ捨てられることがなくなったのです。
「庭が出来上がって、花が咲き始めた頃から、住民の皆さんがきてくれるんです。その様子を見て、うれしかったですね。そして、今までなら、周りがすぐにゴミで一杯になって、掃除しても掃除しても汚れていたのが、庭ができると、みんなゴミを捨てなくなるんですよね。それもまたうれしいことの一つです。」
曹さんが作った庭は、今や団地内の最も魅力的な場所になりました。住民の話です。
「よく遊びにきます」
「団地の中に、こういうリラックスできる場所があって、いいですね。」
「夜は、ここはにぎやかですよー。暑い日は涼みに来るのにぴったりですしね。」
今の曹さんの仕事は、庭の手入れです。曹さんの努力で、毎年、庭の様子は少しずつ変化しています。曹さんは庭の手入れにかかりっきりで、家のことは、奥さんにまかせっきりです。でも奥さんの戴秀蘭さんは夫のことを理解しています。
「夫がやることは、この団地に住む人たちみんなにとっていいことですから、私はサポートしたいと思っています。作業で疲れたころには、飲み物をもっていってあげます。私も家事の合間に、手伝いにいきます。今では私にとっても大切な庭となっています。みんなが遊びに来てくれて、うれしいです。」
住民の賈さんの話です。
「曹さんが庭をたった一人で作っているのをみて、感動しました。今は、他の住民たちは曹さんの真似をして、他の場所で庭づくりに取り組んでいます。この前は、曹さんに頼んでヒョウタンの種をもらいました。私も近くに庭を作りたいからです。」
この曹さんの姿を見て、様々な動きが出ています。団地に住む小中学生は、ボランティアとして、町づくりに取り組んでいます。
「僕は、よく団地内の掃除をしています。あと・・冬は雪かきをします。特に、団地にある施設をきれいに保つことを心がけています。」
また団地のゴミの分別も進めていますし、住民に省エネのコツを紹介する活動を積極的に行なっています。
経済の急速な発展に伴って、中国は厳しい環境問題に直面しています。温家宝首相は、先日行われた全国人民代表大会年度会議の政府活動報告で、こう話しています。
「今後、汚染処理と環境保護により力を入れていきます。国債の発行と中央の予算を増額し、生活汚水やゴミ、危険廃棄物の処理の改善に一層力を入れていこうと考えています。」
しかし、環境の改善は決して政府の仕事だけではありません。それぞれの団地、そしてそこに住む住民の努力がどうしても必要です。曹さんはこう考えています。
「庭をここに作ってから、住宅の環境は大きく改善されました。この団地を、全国のどこにも負けないような住みよい場所にするために、今は住民みんなで頑張っています。将来的には、ここだけではなく、中国全土にこういった取り組みが広がるよう願っています。2008年のオリンピックの頃には、北京全体を大きな花園にして、世界中のお客さんをお迎えしたいですね。」
自分達の住宅を少しでも住みよい場所に・・・曹さんの取り組みはそんな思いから、自ら行動して、始めたものです。一人ひとりの力は小さいけれど、そんな小さな思いの積み重ねこそ、北京、いや中国全体、世界全体の環境を改善していくことにつながるのです。(04/27)
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