経済の発展、市民の生活レベルの向上に伴って、中国人の住まいに対する要求も徐々に高まってきました。両親と同居している若者たちにとって、マイホームを購入することは生活の目標だと言えるでしょう。
今年25歳の男性、平平さんは大学卒業してから、広告会社に勤めています。彼は両親とともに北京市西側にある永楽団地に住んでいます。永楽団地は住民3万人の比較的大きな団地です。団地には新築のマンションもあれば、昔ながらの古いアパートもあります。
平平さんは、両親とともに、60平米、2DKのマンションに住んでいます。このマンションは9年前、彼の両親が3万元で購入したものです。今年、平平さんはずっと交際していた女性と結婚するつもりです。しかしここで問題になるのが住宅です。今のところ、両親は同居を望んでいません。また平平さんたち自身も、結婚後は、独立して生活したいと考えています。しかし、賃貸の部屋に住むことは、少し抵抗があるようです。
「賃貸住宅に住むと、当然、毎月家賃がかかりますよね。その家賃はバカになりません。しかも、もし家を購入した場合を考えると、毎月の返済額とほとんど同じなんですよ。おまけに、賃貸住宅は自分の家にもならないですから、やっぱり購入したほうがいいと考えています。」
平平さんの母親、武さんは、去年、定年退職しました。1970年代半ばに就職したころは、働いていた工場の社員寮で生活していました。社員寮では、一つの部屋に5、6人が住んでいたそうです。80年代に武さんは結婚しました。でも、その後も、地下室や簡易住宅に住んだりと、決して住まいの条件がいいとはいえませんでした。夫妻は、そんな生活を十数年続けたのです。息子の話を聞いた武さんは昔のことを思い出しました。
「若いころは、居住環境は厳しかったわよ。経済的にも苦しくて、マンションを買おうなんて、思いもしなかったですね。住むところさえあればいいと思っていました。今とぜんぜん違いますよ。」
住まいの条件が改善したのは、90年代半ばでした。この頃、武さんと夫の会社が、マンションの部屋を「割り当て」で分配したのです。そして1998年、政府は、この『住宅割り当て』政策をやめ、その代わりに、「住宅を安価で払い下げる」との優遇政策を実施したのです。これにより、夫婦は、当時のマンションの部屋を3万元で購入しました。晴れて、マイホームを手に入れたというわけです。
一家の住宅の変遷は、そのまま北京市の典型的な住宅状況を表しているといえます。十数年前、北京市住民の居住面積は一人当たり10平米でしたが、今は20平米を超え、倍以上となりました。
この30年、一家の居住環境が大きく改善されたことを振り返って、武さんはとても満足しているといいます。でも息子の平平さんはそうは思いません。平平さんは両親みたいな生活は嫌だとはっきり口にします。今、新築マンションを購入しようと、色々と研究を重ねているところです。ですから、平平さんは、北京のマンション事情にとても詳しくなりました。どれぐらいの広さのマンションを買うか、またお金をどう支払うかが、今、検討している点です。
「部屋はできるだけ広いのがほしいですね。住宅を買うということは、そう何度もないことですから、最初から、満足できるような広さを買いたい。ローンについてはね、確かにプレッシャーはかかりますが、ちょっと我慢すれば大丈夫だと思います。幸いなことに会社から住宅手当などがもらえるから、多少楽になるでしょうし。」
母・武さんは、最初に買うのは狭いマンションにして、収入が上がればそれに応じて、マンションを買い換えればいいと勧めました。マンションを買うことの目的は生活の質を高めることです。もし、最初から、あまりに広いマンションを買うと、毎月のローンの返済が負担となり、かえって生活の質が低くなる・・・これがお母さんの考えです。しかし、平平さんはどうしても広いマンションが欲しいと思っています。
この親子の考え方の違いも、今の時代を代表しているといえます。北京社会科学院の戴建中教授の分析です。
「計画経済から改革開放を通して、市場経済へ。今日まで、国民の生活レベルは大きく向上してきました。その主なシンボルは住宅だといえます。政府が今、推進している『いくらかゆとりのある社会』という水準に、住宅に関しては、ほぼ達しているといえます。」しかし、一般の北京市民にとって、マンションを買うことは、決して楽ではありません。中国のほとんどの大規模、中規模都市の不動産価格は軒並み上がり続けています。去年、北京の不動産価格は7ヶ月連続で急上昇し、大都市の上昇幅のトップとなりました。平平さんたちが住む永楽団地の住宅価格は3年前、1平米4000元(6000円)でしたが、今年はその倍となっています。
現在、中国で起きている不動産投資のブームは、国の経済の安定や国民生活に悪い影響を及ぼす可能性があります。このことはすでに中国政府が注意を払っている問題です。このほど開かれた全人代の年次会議で発表した政府活動報告の中で温家宝首相は次のように述べました。
「不動産業は、一般の市民のための住宅開発を重点的に推し進めるべきです。政府としては、低収入の家庭の住宅問題の解決、住宅価格の監督管理を重視していきます。不動産の価格の高騰を抑え、合理的な価格を保つことを第1課題としていきます。」
不動産価格の不合理な高騰を抑えるため、去年、中国政府は不動産市場に対するマクロ管理を強めました。今年は、低収入の家庭の住宅問題を解決するため、比較的安価な住宅を建設する計画を重点的に実施します。北京市中国共産党委員会の劉淇書記は「北京市は3年間で2000万平米の低価格住宅を建設し、価格高騰を抑え、市民の要求にこたえる」と明らかにしました。
しかし、政府のこれらの措置の効果が明らかになってくるには、まだ時間が必要です。しかし、一日も早く結婚したい平平さんにとって、これを待っている時間はありません。先日、平平さんは、近くにある団地で絶好の物件を見つけました。この部屋は、広さ100平米あまりと十分な大きさで、2DK。子供が生まれても十分ゆとりのある間取りが気に入ったそうです。早速、平平さんは購入の手続きに取り掛かっています。
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