中国のインターネット界では、今、有名な映画やドラマ、そして有名人の言葉などを元に、パロディー作品を作ることが流行しています。しかし、これらの作品をめぐっては、多くの議論が起こっています。こうしたパロディー作品は、新しい娯楽といっていいのでしょうか。それともせっかくの伝統を否定するものなのでしょうか、これについては様々な意見があります。
中国では今、誰かが電話をかけたときに聞こえる呼び出し音を流行音楽や面白おかしいフレーズに変えることが流行しています。中国中央テレビの有名なアナウンサー黄健翔さんのサッカー実況をアレンジしたものはこのほど流行していました。
今年のサッカーワールドカップで、イタリアとオーストラリアの試合がPK戦にもつれこんだ時、当時の実況アナウンサー、黄さんは、本来、アナウンサーの職分は公平でなくてはならないにもかかわらず、興奮して、思わず「万歳イタリア、偉大なイタリア」と叫んでしまいました。彼は根っからのイタリア代表チームのファンということで、思わず放送中に"本音"が出てしまったということなのですが、このことは国内で大きな批判にさらされました。結局、黄アナウンサーが記者会見で謝罪することで"事件"は収まったのですが、その後、この黄アナウンサーの実況音が別の形で使われるようになったというわけです。
インターネット上では黄さんの実況のうち「**万歳」「偉大な**」などという言葉をアレンジして、携帯電話企業のチャイナモバイル、中国石油化学、不動産業界などを揶揄したパロディー作品、30個あまりが出回ったのです。そして今のところ、携帯電話の「呼び出し音」として、ダウンロード数がもっとも多いとのことです。
インターネットWEB上で風刺やユーモアの効いたフラッシュ(音声と映像を組み合わせて作るアニメーションの規格の一つ)や、音楽、写真、絵画、文字などの作品が増えています。こうしたことは、西側諸国では以前からみられましたが、中国で流行し始めたのは今年1月ごろからです。
またインターネットだけでなく、携帯電話の着メロや、写真、油絵などにも多くなっています。
清華大学で美術を教える安適さんは、タレントの肖像画を描き、そこに風刺のコメントを入れた作品をインターネットで発表しました。これは、多くの人たちの反響があり、好評を得ました。ただ題材となったタレント本人はあまり良い気持ちではありません。告訴の準備をしている人もいるそうです。安適さんはこう言います。
「私の作品は新たな角度からスターを見るものです。目的は、あくまで娯楽です。これが個人攻撃だという声もありますが、それは娯楽の基準が違うからだと思います。問題があるならば、法律に基づいて判断してもらえばいいと考えています。」
こうしたパロディーは、流行歌や今話題の人物だけでなく、名作文学、古典映画、国民的な英雄にも広がっています。パロディーは、元の作品に対するものとは全く異なる見方を示すことで、一層、論争が激しくなります。娯楽が多種多様な今日、WEB上でこのようなパロディー作品が広がることはやむをえないことですが、伝統的な名作や国民的英雄までその揶揄の対象となれば、これは、伝統的な価値観への挑戦と見ざるをえません。人々が大事にしているものをむやみに損なって、多くの人々を傷つけることになるという非難がたくさん出ています。しかも、価値観がまだしっかり確立していない若者にも悪影響を与えかねないのです。
北京師範大学のある学生は「WEB上のパロディー作品は最低限の良識を守るべき」と考えています。
「インターネットでのパロディー作品は、基本的には、とても良いものだと思います。社会の悪い現象を風刺して指摘することができますから。でも、それには最低限の良識が必要です。他人の尊厳を侵したり、他人の利益を損なうことを目的とすることは許されません。基本的には、個人の創作の自由は守られねばなりません。でも作品は個人で作るものですから、独りよがりになりがちです。だから作品の良し悪しは多くの人々の判断に任せるべきです。」
中国最大のインターネットポータルサイト、新浪ネットの管理者は、パロディー作品における「管理の必要性」を強調しています。候小強副編集長はそれについて、「情報伝達を担う機関として、パロディー作品の内容については私達に管理責任があります。同時に、政府もこれについて明確に規定を定めるべきだ」と語りました。
「その指摘の対象が何なのか、これが問題です。あくまで娯楽目的で、道徳と法律を損なうことなく、他人の権利も侵すことがなければ、我々のサイトは歓迎します。しかし、その作品が法律を犯す、または他人を傷つける悪意のいたずらであれば、それを支持すべきではありません。この問題はある一定の段階になれば、必ず監督と管理を必要とします。そうしてこそ、秩序ができて、混乱を避けることができると考えています。」
それでは、こうしたインターネットでのパロディー作品に対して、政府はどのような態度をとっているのでしょう。
WEB上で発表される音声や映像に対する管理は、2004年に定められた「許可制」が実施されています。そしてその許可の対象は、個人ではなく、ポータルサイトなどの機構です。インターネットを通して、作品を掲載する場合、業者は許可証を取得すべきであり、彼らはそれらの作品を自らの責任において検査し、禁止された内容がないかどうかを確かめるべきと定められています。
管理監督官庁である中国ラジオ映画テレビ総局の責任者、楊培紅氏に話を聞きました。
「2004年の規定には、製作者個人の責任については定められていません。創作そのものは、きわめて個人的な行為だからです。しかし、それを伝達する段階に入れば、その伝え手となるメディア側が、その作品に対して責任を負うべきです」
一部の報道は「中国政府がWEB上でのパロディー作品発表を禁止する」と伝えましたが、これについて楊氏は、その規制が「個別の製作者に対する規制ではない」とした上で、「情報の伝え手は、その伝えようとする内容が社会的に許されるものかどうかを判断する力を持つべきだ。ポータルサイトが、その内容についての監督義務を履行しなければ、その時点で処分される」との方針を明らかにしました。
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