中国中部の河南省にある大城村。ここで今、ある二人の人物が話題になっています。それは、国連に勤めるベテラン通訳、中国台湾出身の、花俊雄さんと香港特別行政区の劉達政さんです。この二人はなんと今、この村の名誉村長でもあるのです。国連本部に勤めるこの二人と、河南省の小さな村の間にどんな出来事があったのでしょう。
今年6月のある日。黄色い菜の花が咲き誇る大城村には、お祭りの日でもないのに、村の獅子舞チームが全員出動し、村の入り口で誰かを待っていました。彼らが心待ちにしている人、それが花俊雄さんと劉達政さんです。村人たちは道路の両側に列を作って、二人を大歓迎したのです。
"ゴマ塩頭"の二人は中肉中背の男性。村の人々に優しく挨拶します。二人は米ニューヨークからわざわざこの村を訪れるため、中国にやって来たのです。
二人は、同じく国連本部に勤める同僚の曹国中さんからこの村のことを知りました。曹国中さんはこの大城村で生まれ育ちました。国連での勤務は8年間。今回やってきた花さんや劉さんとは仲の良い同僚です。
曹さんは、ニューヨークに勤めていますが、ずっと故郷のことや、幼い頃の仲間のことを忘れてはいません。時折、村に送金もして、村がよくなるよう援助しています。このことを知った花さんと劉さんは、この素朴な若者の故郷を思う気持ちに感動し、自らも何か力になれればと、この村にやってきたというわけです。
花さんはこのように話します。
「私も劉さんも貧しい家庭に生まれたのです。経済的に立ち遅れたふるさとの整備に自らの力を捧げることは、とても大切なことだと、日ごろから考えていました。曹くんはそんな私たちの思いを知って、自分の故郷である大城村の事情を話してくれたのです。これは私たちにとって良いチャンスだと思いました」
河南省焦作市の遠い郊外にある大城村は、地域でも最も「貧しい村」の一つとされています。隣村はそれぞれ開発を進め、豊かになりつつありますが、この村だけは、まだ非常に遅れています。まともなアスファルトの道路もありませんし、小学校の設備もお粗末でした。
今年3月、こうした事情を知った二人はそれぞれ1万ドル(約110万円あまり)ずつ出して、大城村に道路を敷設し、また小学校の設備を整えることにしました。二人はアメリカから、合わせて2万ドルを大城村に送りました。村ではそれを使ってパソコンを購入して小学校にパソコン教室を開いたほか、残ったお金を道路の敷設に使いました。
この二人の援助に対して、村人はとても感謝しています。村に住む左燦章さんの話です。
「本当にうれしいことです。涙がこぼれるぐらい。これまで、こんな善意にあったことは一度もなかったんです。この村は貧しいけれど、二人の華僑の先生がお金を出して援助してくれました。このうれしさをなんと言ったらいいか分かりません」
実は二人がこの村に与えたものはお金だけではありませんでした。村長の李光楽さんの話では、これまで、この村の人々は気持ちがバラバラで、一致団結して、公益のためになることをしようとする気持ちがなかったそうです。
しかし、国連に勤める二人が、大城村のことを気にかけていることを知って、村人も変わりました。自らの農作業を終えたあと、ボランティアで村のことを進んでするようになったのです。道路の敷設工事の際、全ての村人が作業を手伝いにやってきました。今までにはなかったことです。こうした変化を起こしたのは、ほかでもないこの二人のおかげだと村の人々は言います。村長の李さんはこのように言います。
「彼らは、資金の問題を解決してくれただけでなくて、大切なのは、彼らの精神、自ら豊かになるだけで満足せず、貧しい人々にも注目しているということです。これは中国の古くからの美徳です。これこそが、かけがえのない宝物なのです」
二人の援助が、村にこれほど大きな影響をもたらしたということで、李村長は、二人を名誉村長として招こうと提案しました。村の人々も大賛成で、早速、ニューヨークにいる二人に名誉村長の証書を送ったのです。
二人は村の人々の招きに心を打たれ、ぜひ大城村を自ら訪れたいと考え、村にやってきたというわけです。劉達政さんは今回の旅についてこう話します。
「私たちにとっても今回の旅は勉強になりました。村の人々に直接、お会いして、彼らの村がどんな問題を抱えているか、私たち海外にいる者に、どんなお手伝いが出来るのか、知ることができました。実際に現地を訪れることで、中国の農村の現状をこの目で確かめることができたのです」
二人の「名誉村長」に感謝の意を示そうと、村の人々はそれぞれ土地を用意して、村に家を建ててもらおうとしました。しかし、二人は相談した結果、この二ヶ所に図書館と高齢者活動センターを設けることにしました。名誉村長になった以上、村の人々にもっと貢献したいという思いです。
ニューヨークでの現代的な生活とは、ある意味、まったく異なる農村での滞在。しかし、二人は、それにまったく違和感を持たなかったそうです。久しぶりに田舎に戻ってきて、家に戻ったような気持ちだと語りました。二人はこの村の人々と一緒に食事をして、おしゃべりを楽しんで、そして、村の整備について相談しました。
この村の未来に対して、二人とも明るい見通しを持っています。劉達政さんの話です。
「私たちは、経済的なわずかな貢献をしただけです。大切なのはこれからです。これをきっかけにして今後もずっとこの村の整備に携わっていきたいと思っています。5年後、10年後、もしかすると、大城村は河南省で最も発展した村になっているかもしれませんよ。」
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