チベット自治区の中心地、ラサ市は平均海抜4000メートル以上の青海チベット高原にあります。ここの有名な繁華街・八廓街は一年中観光客でにぎわっています。ここにネパール人のお店があります。シャマウガブ銀製品店です。商売がとてもうまくいっているお店です。ここでは、鉄道の開通を前に、6月、店の改装工事を始めました。開店以来もっとも大規模なもので、総額15万元（日本円で約210万円）かけて、ひと月あまりの工事でした。

　45歳のネパール人、オーナーのトラダルさんは、鉄道開通前に伺ったとき、こう語ってらっしゃいました。

　「この鉄道が開通すれば、店の商売はもっとよくなるでしょうね。大勢の人が列車に乗ってラサにやって来るでしょうか。店を改装するのも、もちろん、そのお客を当て込んでですよ。前もって準備をしておかなきゃー。」

　トラダルさんはラサで商売を始めて、２２年になります。一年の大部分をラサで過ごす彼ですが、ネパールで銀製品を仕入れるため、数ヶ月に一度は帰国します。

　その昔、ネパール人はらくだの隊列を組んで、貨物を背負わせ、カトマンズとラサを長い時間を掛けて行き来していました。トラダルさんのお父さんもその一人だったのです。お父さんはラサで４０年間住み、インド製の石鹸や、布の生地、鍋などと、ラサの羊毛や瀬戸物を交換して、商売をしていたそうです。

　そのころ、チベット自治区には電気もなく、まともな道路もありませんでした。トラダルさんのお父さんは、二、三年ごとにネパールに帰国します。いつも商売が大変だとかいう話を子供のころから聞いていたそうです。

　しかし、いまは、青海チベット鉄道の開通で、交通がずいぶん便利になりました。

　「鉄道の開通は、中国のチベット自治区にとっても、そしてネパールにとってもいいことです。鉄道の開通を以前から心待ちにしていました。これで、もっと多くの中国製品を鉄道によって、ラサまで運ぶことができます。輸送コストもずいぶん安くなります。中国の全国の商品をラサ経由で、ネパールで、売ってもいいし、逆にネパールの品物を鉄道で、中国各地に売ることもできます。これからが楽しみですね。」

　トラダルさんはラサで、ネパール製の銀製品や、仏像、そしてタンカと呼ばれる仏教画の卸売りなどを手がけています。今後は、中国の内陸部から、安くて使いやすい家電製品を仕入れて、ネパールに輸出しようと考えています。また内陸部に商売を広げようと、ネパールの工芸品を扱う代理店を現地で探しています。

　「今後は、中国のほかの町でも商売を拡大していきたいですね。北京とか、成都とか・・鉄道を利用して、ネパールのものを、ラサを通して、大量に内陸部にもっていきたいと思っています。」

　現在、ラサに勤めているネパール人はまだそれほど多くなく、シェフや理容師などの第三次産業に集中しています。鉄道の開通、そして道路の整備が進めば、チベットに来るネパール人も増えると考えられています。ネパールの新聞にも青海チベット鉄道のことが頻繁に取り上げられていて、ネパール人もこの鉄道に大きな期待をかけているそうです。

　トラダルさんの店から数軒離れたところにチベット・レストランがあります。スコットランドから来たマイクダンナさんは、ここで子供をつれてチベット料理を楽しんでいます。チベットミルクティーを飲みながら、のんびりと街を行き来する人々を眺めます。

　マイクダンナさんは鉄道のことを次のように言います。

　「チベットの人々からすれば、鉄道の開通により、より多くの貨物が運び込むことができます。生活も一層便利になるでしょう。もちろん、列車に乗ってラサに来る人はぐんと増えるでしょう。列車は安いですから。飛行機だとたどうしてもね・・。」

　値段が安いだけではありません。沿線の美しい景色を楽しみたい人々にとっても、汽車の旅は最適です。

　マイクダンナさんの娘、ケートちゃんも、早く乗ってみたいと言っています。

　「列車だったら、すごく時間が長いんだろうなあ。でも綺麗な景色が見れるのがいいな。飛行機よりずっと面白いし。私はそういう旅が大好き。もっとチベットのいろんなところを回りたい・・あの有名なチョモランマへも行けたらいいなあ」

　同じレストランで食事をしていたイスラエル人の若い人、オーンさんにも声をかけました。オーンさんはこのように言います。

　「鉄道が開通したことで、交通が便利になりました。チベットにとって、これから世界と接するチャンスが増えることでしょう。また外国人も大勢来るようになると思います。」

　青海チベット鉄道の開通は、２百万のチベットの人々だけでなく、中国全体、そして、チベットに住む外国の人にとっても、大きな希望を抱かせる出来事となりました。今後、チベットはますます偉大な発展を遂げていくことでしょう。