職人は中国語で「手芸人」と書きます。機械化が進んだ結果、今は手作りの良さが見直されつつありますが、かつて重要な役割を果たしていた職人はだんだん少なくなっています。
さて、その中から、歴史に名を残し、中国全土でその名が知られるハサミ職人を紹介しましょう。実は有名な方が南方と北方にそれぞれ一人ずついらっしゃいます。「南の張小泉」と「北の王麻子」です。王麻子さんは北京の人で、1651年、いまからおよそ350年前に、工場を開き、以来、その伝統技術は代々受け継がれてきました。一つ一つ丁寧に手作りされた「王麻子のハサミ」は質も非常によく、3世紀にわたって人々に愛用されていました。
しかし、新技術がどんどん取り入れられ、新しいハサミ製品が出回るにしたがって、コストの高い手作りハサミはだんだん市場を減らしてきました。そして数年前、その工場はついに倒産を余儀なくされたのです。この中国一の名ブランドの倒産は、一般の工場の倒産どころではない、大きな波紋を呼びました。中国人からすれば、昔から暮らしに密接につながっていたものがなくなってしまった寂しさを感じる出来事でした。その意味では職人は、ただモノを作るというだけではなく、人々の心を豊かにするという力ももっているのかもしれません。
北京に住んだことのある方はお分かりになると思いますが、職人さんの"呼び売りの声"は北京になくてはならない「町の音」のひとつです。多くの文学作品にもあるように、包丁やハサミを研ぐ職人が、手にした鐘を鳴らして呼び売りしながら、北京の横丁を歩いていく。このような風景は、今の町にはほとんど見られなくなりました。
でも、中国で一番大事にされる旧正月になると、こうした職人さんが、また大挙して姿を現し、街頭で風船や人形を作って子供たちを喜ばせます。
職人さんの中でも、特に器用だといわれるのが中国南部の蘇州出身の人たちです。ここで、このほど職人コンクールが行われました。各職人が様々な分野で技を競い、その精巧さを競うものですが、入賞したのはほとんどが50代以上の方だったそうです。後継ぎが足りないというのは、どの職人の世界でも共通の心配事のようです。長い間、伝えられてきた貴重な職人の技を私達の時代で終わらせてしまうことはあまりにも惜しいことです。
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