広大な国土を持つ中国ですから、同じ中国の春と言っても、南北の差は非常に大きいです。海南島は真夏のような暑さが続いている頃、西部の青海省の海北チベット族自治州の草原では、まだ完全に雪解けけせず、春先特有の冷え込みが続いています。
この海北チベット族自治州の草原を20そこの若い苗滋潤さんは毎日、オートバイに乗って、村々を走っています。苗さんは地元の身体障害者調査隊のメンバーで、今、広い草原に散らばって住んでいる牧畜業をする人たちを訪ね、地元の身障者の状況を調べています。
住民それぞれの家を訪れ、家族の収入や健康状況を聞き、一つ一つ記録していきます。
今回の調査は、中国での二回目の身障者調査で、4月1日から、260万人を対象に、各家庭の直接訪問が始まっています。この数は全人口の2%を。調査する地点は31の省や自治区から抽選で決められたものです。
今回の調査について責任者の一人・陳新民氏は次のように話します。
「19年前の一回目の調査データからでは、もはや今の事情を知ることはできません。ですから、身障者事業の計画や政策の制定、その実施、そして実施後の評価、いずれも困難になります。そこで今回の調査が始まったわけです。」
中国での第一回調査は19年前に行なわれたもので、社会と経済の発展や、医療、衛生レベルの向上に従い、中国における身障者の数、分布、健康事情、就業状況には変化が起きています。ですから、より現状に即した政策制定に向け、調査が行われるというわけです。
ここ青海省北チベット自治州の剛察県は今回の調査で、サンプルとして定められ、8ヶ所の村で調査が行なわれています。この地域の特徴は、面積が広く、住民がそれぞれ散らばって住んでいるということです。二つの世帯の間は遠く離れていて、一番遠いものでは5キロ以上離れたのもあります。また海抜が高く、平均4500メートル以上。さらに、ちょうど雪融けのシーズンで、草原はぬかるみが多く、交通が非常に不便です。つまり、ここは今回の調査の中で、最も調査の困難な地域の一つ、といってもいいかもしれません。
しかし、それでも調査は行われます。
調査員の一人、苗滋潤さんはこう語ります。
「牧畜業をする人の家を訪ねるのは今回が初めてです。でも、一生懸命に仕事をしようと思っています。なぜなら、身障者の方々のために良いことをするのですから。」
国家を挙げての調査で、数多くの身障者の暮らしを調査、記録し、様々な困難に直面する彼らの生活をよりよくしていかねばならない、とメンバーは誇りをもって、この仕事に携わっています。
苗さんが担当する調査地域に住むチベット族のイェーシンアンジさんは、夫婦二人とも体に障害を持っています。そして、一人いる子供にも、言語障害があります。苗さんは、翌日、町の身体障害調査医療センターで健康診断を受けてもらうよう、この夫婦と約束しました。
町の身体障害調査医療センターはここ数日、いつもよりにぎやかになっています。町中の身障者がこの病院に集まってきて健康診断を受けるのです。センターの責任者、汪虎生さんによりますと、身障者の健康診断に当たっている8人の医師は、すべてほかの病院から来たベテランで、視力、聴力、言語能力、手足、知力、精神などに分けて、身障者の健康診断を行います。今回の診断のためにこのセンターでは、2万元(日本円で30万円)をかけて設備を整えたそうです。
ほとんど毎日のように、数10人がセンターへ診断を受けに来ます。しかし、一部に、遠いからといってセンターに来ようとしない人がいます。調査チームはそれぞれの家を訪問して、健康診断を受けるよう説得します。また、センターに来ることができない障害を持つ人々に対しては調査チームが設備を持参して、その家まで行って健康診断を行います。
「センターに来られない方については、いくら遠くに住んでいるとしても、私たちはオートバイに乗ってその家を訪ね、目の病気なら、眼科の、手足の病気ならその医師が行くことになっています。オートバイで行けないところは徒歩ででも行きます」
汪さんによりますと、現在、政府は身障者に対し優遇政策を適用しています。医療費の政府側の負担割合は、身障者が健全者より3ポイント高くなっています。また、地元では毎年、政府が資金を出して白内障の患者のために手術を実施しますし、また耳が不自由な方や、話すことのできない人々を対象に手話の訓練を行うということもしています。医療を通じて健康を取り戻し、仕事に就き、社会的に自立できるようになる例は少なくありません。
今回の調査は、単なる調査だけでなく、身障者の人々を支援し、行政サービスを提供する活動でもあります。たとえば、経済的に比較的立ち遅れている西部の12の省や自治区では、身障者であると確認された人々に、調査チームが毛布やシーツ、タオルなどの日用品を贈ります。
現在、第二回中国身障者調査は大詰めを迎えています。この調査について、当の身障者の方はどう感じているのでしょう。63歳の來景強さんは北京に住む身体障害者です。
「今回の調査を通じて、政府が私たち身障者の生活の実態を理解してくれればと思います。どうやって身障者を支援するか、政策の制定に当たっては、その根拠が必要になりますし、今回の調査によって、それが得られるはずです。私たちの生活もだんだん良くなるでしょう」
調査責任者の一人、陳新民さんによりますと、今回の調査は19年前の一回目に比べて、大きく改善されているそうです。例えば、調査計画を綿密に立て、調査員の配置はより合理的となりました。そして、調査チームのメンバーに対する教育も行き届いています。さらに調査方法も以前より格段に進歩し、調査基準は国際基準に沿って定められたものとなりました。
陳さんはさらに次のように言います。
「WHO・世界保健機関に今回の調査について詳しく報告した結果、調査基準の制定について高い評価を受けました。WHOの規定に合致する一方、中国の特色をも併せ持っています。」
今回は、リハビリ、生活、結婚、身障者対応の施設などに対する、身障者自身の考え方についても調査します。データはまだ出ていませんが、結果が出れば、今後、政府が身障者に対する措置を講じ、良いサービスを提供するために必要不可欠なデータになることは間違いありません。
|