アイルランド人の董漠涵さんは、数年前までは中国語が全く出来なかった董さんですが、今、中国語のアナウンサーをしています。実は「外国人演芸コンクール」の出場者で見事チャンピオンに輝き、自分の舞台を広げて、今や中国語のラジオ放送のパーソナリティとして活躍している外国人の一人なのです。
中国にやってきたきっかけは、全くの偶然だったという董さん。中国に来たことで人生が大きく変わりました。
董漠涵さんの本名はリチャード・ドラン。中国との出会いは8年前でした。アイルランドの大学を卒業して友人と一緒に、オーストラリアへ旅に行ったときのことです。そこで借りたアパートで一人の華僑と出会いました。そして、この華僑に紹介されて、董さんとその友人は、中国東北部の遼寧省遼陽市の中学校で英語を教えることになったのです。
せっかちな董さんは、オーストラリアから一旦アイルランドに帰ることもなく、直接、南半球のオーストラリアから北半球の中国にやってきたそうです。その頃は秋だったシドニーと違い、遼陽市はまだ春先でした。春先の東北部はまだまだ日本の冬と変わらない寒さです。遼陽に到着した日も雪が降っていました。董さんの印象には強くこの雪が残っているそうです。
「中国の気候のことはぜんぜん知りませんでした。中国の東北地方が三月に入ってもこれほど寒いとは思いもよらなかったんです。シドニーと同じような感覚で現地に着いたら、マイナス20度、もうびっくりしました。」
遼陽市で英語の教師をしていた日々は楽しかったそうです。同僚の教師も、生徒たちも、この明るくて朗らかな若い「白人先生」のことをとても気に入り、周りとのコミュニケーションがうまくいきました。「董漠涵」という中国語の名前もその時に、生徒たちがつけてくれたもので、砂漠のような広い心を持つとともに、砂漠にいる人々が水を望むと同様に、知識を望む人になるという願いが込められたものだそうです。
さて、ここでの生活でもう一つ、董さんにとって大きな出会いがありました。ここで英語教員をしていたある女性を好きになったのです。董さんは彼女との交際を始め、教員の仕事も順調で、公私ともに充実した時間を過ごしていました。
楽しい時間は早く感じるとよく言いますが、契約の一年があっという間に過ぎました。
契約が切れ、アイルランドに一旦は帰国した董さん。でも、ここで出合った彼女のことをなかなか忘れられません。考えに考えた末、中国に戻ることにしました。今回は留学生として、北京語言大学で中国語を勉強すると決意したのです。
元々、飲み込みの早い董さんは言葉の上達もあっという間でした。ある人がいうには世界で最も難しいともいわれる言葉、中国語を短期間にマスターすることができました。大学が開いた「文芸の夕べ」で董さんは、アフリカからの留学生と一緒に中国語で漫才を披露しました。ここで見事な流暢な中国語で「かけあい」をする様子が先生の目にとまり、これがきっかけで、北京テレビの「外国人演芸コンクール」に出場することになったというわけです。
そして、コンクールでも見事に優勝。これが彼のもう一つの転機となったのです。
このコンクールでの漫才が中国の有名な漫才師、丁広泉さんの目にとまったのです。その才能にほれ込んだ丁さんは董さんに声をかけ、弟子入れさせたのです。
外国人のこの弟子のことを、丁さんは中国の習慣で「小董(董くん)」と呼び、また董さんは師匠の丁さんのことを「丁爺」と呼んでいます。
丁さんは、この外国人の弟子を高く評価しています。
「彼は、まずユーモアのある性格をしています。生活のいたるところでその性格を出ているんですよ。自らの国であるアイルランドのユーモアを持つ一方で、中国のユーモアを身につけるのにも熱心です。彼がステージに立つだけで、見る人々を笑わせることができる・・中国の漫才に向いていると思いますよ。」
さらに、董さんは仕事を発展させていきました。流暢な中国語を生かせる仕事、ラジオ局のアナウンサーをはじめたのです。今、董さんは北京放送の国内向けの中国語放送のアナウンサーとして活躍しています。自らの仕事を董さんはこのようにいいます。
「いま二つの番組を担当していますが、両方とも面白いものです。とりわけ、中国の普通の人々、中でも大都市に住む庶民の暮らしを理解するチャンスを与えてくれたと思います。」
董さんの担当番組は「外国人の目に映った中国」です。フランスから来たジュリアンさん、それに天津市から来た李欣さんとともに、その時、北京で注目されている話題について中国語でそれぞれのコメントを述べるというもので、ただ一つの見解ではなく、東洋と西洋の異なった文化背景を持つ人々の、それぞれの特色を持った見解が飛び出す・・これが番組のウリだそうです。中国のことについての番組ですが、同時に外国の文化を知ることもできるということで、聴取者から好評を得ているそうです。
三人の中の唯一の女性、天津から来た李欣さんは「董さんとは、それぞれ文化の背景が違うから、物事に対して異なった考え方を持つのも当然。だから、番組中、口げんかになることもあるが、プライベートでは、三人はとても仲良く付き合っている・・」といいます。
「番組の収録に当たって、その場でユーモアを利かして、笑わせてくれるし、子供みたいに自分の思うがままに何でもしゃべってしまいます。本当に素直で可愛い男性です」
さて、では遼寧省の中学校で董さんが出合った女性はどうしているのでしょう。ご心配なく。今は董さんと結婚して、幸せな家庭を築いていらっしゃいます。李頴さんです。一歳半になる息子さんを育てるために、今、李さんは仕事を休んでいます。奥さんの職業を聞かれると、董さんはいつも「彼女の仕事は人生を楽しむことです」と答えます。董さん自身の楽しみは家で読書することと、息子さんと遊ぶことだそうです。
毎日朝6時ごろ、董さんは一般の中国人と同じように、地下鉄やバスで北京放送に向かいます。また、ほかのテレビ局の取材を時々受けていますから、毎日は大変忙しいです。
中国では外国人のことを「老外」と呼びます。親しみもこもっているのですが、「中国人でない人」という意味もあります。董さんはこの呼び名に違和感を持ち、自分のことを外国人だと思っていません。奥さんの作った中国料理が何よりも大好き。むしろ西洋料理よりも中国料理の方が好きなのだとか。いつか「北京人」の仲間入りをしたい・・それが董さんの願望です。
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