「へえ?ところで俺は、他人と違って一番怖いのは金と銀だよ。もし誰かに金塊や銀塊を投げられたら、すぐにお陀仏さ。お前さんも見ただろう。おいらのうちには金塊や銀塊がないんだよ。あんなもんがあったらおいらは死んじゃうよ」
化け物、これを聞き暫く考えたが、タチンの住まいには金塊や銀塊の匂いは全くしなかったのを思い出し、信じた。
こうしてタチンと化け物はまもなく息を引き取るという爺さんの家にきたので、化け物は「お前さん、ここで見張っておいてくれ」と言い残し、家の中に入っていった。タチンは仕方がないので外で待っていたが、暫くして家の中から女の泣き声が聞こえた。そしてかの化け物がにやにや顔で出てきた。
「おう。待たせたな。うまく言った。しかしこの袋が重くなったので、お前さん暫く担いでくれ」
これにはタチン、皮の袋を担ぎ、化け物と一緒に歩き出し、暫くして近くに青稞(チンコー)の麦畑があるのを見つけ、袋を担ぎながら一目散に麦畑の中に逃げ込んだ。
慌てたのは化け物。かの皮の袋をなくしては、閻魔さまからひどいお仕置きを受けるので、タチンのあとを追いかけたが、自分が怖がっている青稞の麦畑には入れない。そこで畑の近くでわめき、懐から金塊と銀塊と取り出し、「これでも食らって死ね!」と叫ぶとタチンめがけて金塊などを投げた。こちらタチンが、これに応戦し、化け物が苦手だという青稞の麦をいくつもいくつも束ね、化け物めがけて投げ出す。そのうちに、幾つかの青稞の束が化け物にあたり、骨を何本かおられたのか、化け物はおそろしい悲鳴を上げてどこかへ消えてしまった。
こうしてタチンは夜明けまで麦畑に隠れていたが、もういいだろうと、二束の青稞麦を手に、あの息を引き取った爺さんの家へ行き、かの皮の袋の口を爺さんの鼻の下に当て、爺さんを生き返らせた。
喜んだのは、爺さんが死んで取り残された婆さんと一人娘。爺さんが助かったのをきっかけに娘が年頃なので、いっそのことタチンを娘婿に向かえ、そのときからチタンは幸せに暮したそうな。
え!化け物が投げた金塊と銀塊、もちろん、タチンがもって行きましたよ。
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