シーサンパンナーは歴史上、「万象之州」の誉れある土地でした。それほど、象が多かったのです。しかし、その後、人類の生産活動や自然破壊により、野生の象が1978年の調査では、わずか100頭足らずにまで減少してしまいました。生態系と種の多様性を守ることが逼迫し、1980年代以降、中国政府はシーサンパンナーで広さ3600万ムー以上(約245万ヘクタール)の自然保護区を設けました(植物4000余りの中の60種類余り、動物2000余りの内の109種類が絶滅の危機に瀕している種)。保護措置が効を奏し、今では、野生の象は300頭余りにまで繁殖してきているとのことです。
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シーサンパンナーの風景 |
確かに、象は小乗仏教の寺院にも彫像として現れるほど、仏教徒にとっては、大変縁起の良い動物です。また、動物園ではサーカスが得意で、人間とも仲良く付き合える温厚な動物、こんなイメージが強いです。更に、聞くところによれば、象は枝豆の殻を剥いて食べるという繊細なこともでき、手先(足先)が器用で、知能指数の高い動物なのだそうです。
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景洪市内・ホテル前の白象 |
しかし、自然保護区に暮らす地元住民にとっては、象はこのような可愛らしいイメージとは程遠く、その種群の拡大に伴い、農作物や人身の被害を増やしている存在です。成年象は一日当たり、サトウキビ2~3トンに相当する食糧が必要です。もしこれが保障されなければ、農作物や果樹などを荒しに出てくるそうです。象の数が増えるに伴い、最近、年間数十万トンに及ぶ農作物の被害が報告され、この他、象の口から食糧を奪い返すため闘ったのか、もしくは、山道で象と不意に遭遇して被害を被った人の数も、年間、数十人規模に達しているとも言われています。
地元では、野生の象にまつわる執念深い復讐物語が伝わっています。自分の家の畑を荒しに来た象を、ある農民が発砲して象を退治しました。しかし、数年後に、その象が家族と仲間たちを連れて戻り、今度は畑だけでなく、農民の家までグチャグチャにつぶしたという悲惨な物語でした。
また、自然保護区の画定により、保護区内のすべての動植物に指一本たりとも触れてはならない決まりが発効しました。人間が象を殺したり怪我をさたりした場合、法的懲罰を受けなければならないとなっています。
一方、野生動物により被害を被った農民への補償は、現行の法律では、地元政府が負担する事となっています。これら地元政府の多くは国家の「重点扶助貧困県」で、資金源は極めて限られています。
それ故、地元農民は「なす術もなく、ただ慟哭しながら、刈入れ寸前の農作物を象が食べているのを見過ごさざるをえず」、象権と人権が両立できない事態が起きています。
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