神戸松蔭女子学院大学准教授・古川典代さん
~日本における中国語通訳の現状
日本語中国語通訳はこれまで、中国国内を背景にして語られることが多かったんですが、海を隔てた日本ではどうなっているのでしょうか。
30年の通訳人生を歩んできたベテラン・神戸松蔭女子学院大学の古川典代さんに、日本における中国語通訳の概況について伺いました。
――日本では、通訳の分野はどのように分けられていますか?
会議通訳、通訳ガイド、司法通訳、放送通訳、芸能通訳、スポーツ通訳、企業通訳、医療通訳などに分かれています。
中でも、「司法通訳」は「法廷通訳」、「医療通訳」は「コミュニティー通訳」とも言い、日本にいる外国人の方が病気になったり、事故に遭って医者にかかった時などに頼まれるボランティア通訳のことです。ただし、多少は日当が出ます。以上の2つはどちらも人権や命に関わる通訳で、需要はいずれも増え続けていくと見られています。
――通訳の形態について、ご紹介お願いします。
大きくは逐次通訳と同時通訳に分かれています。同時通訳の中には、ブースを設置して対応する形態のほか、耳元で囁いて通訳する「ウィスパリング」という形もあります。それは、対象言語者が一人もしくは少人数で、ブースが設置できない場合の対応です。
また、リレー通訳という形もあります。例えば、世界選手権の入賞者インタビューで1位が中国人、2位がアメリカ人、3位が日本人といった場合には、中国語と英語の通訳者が選手の横につき、それぞれの発言を双方向に訳出します。この場合、中国語⇒日本語⇒英語または、英語⇒日本語⇒中国語のプロセスが生じますが、言語特性からすれば中国語⇔英語ができれば、かなり時間節約が図れることになり、今後このニーズが増すことだろうと見ています。
――日本における、通訳トレーニングメソッドの近況は?
そうですね。大きくは、
①クイックレスポンス(Quick-response) 快速反应
②ラギング(Lagging) 时差复述
③シャドーイング(Shadowing) 跟述,影子练习
④リプロダクション(Reproduction) 复述
⑤ディクテーション(Dictation) 听写
⑥サイトトランスレーション(Sight-translation) 视译
⑦サマリー(Summary) 摘述,大意
⑧ノートテイキング(Note-taking) 笔记
に分かれていますが、中でも、「ラギング」が新しく取り入れられた方法です。単語や短文を聞いて、「一つ遅れ」や「二つ遅れ」でリピートし、慣れてから「一つ遅れ」や「二つ遅れ」で「訳語」を言う練習で、その目的は記憶保持力を増強させることです。また、最近は「ジャドーイング」の効能が検証されているので、語学教育にもよく取り入れられています。
――日本における中国語通訳の養成機関の概要をご紹介ください。
中国語専攻を設置している大学には、国立では、大阪大学と東京大学、公立では、愛知県立大、神戸市外大、北九州市立大があります。私立なら、杏林大学、大東文化大、神田外大、京都産大などがあります。
それ以外に、民間の通訳養成学校もたくさん存在しています。その中でもインタースクール、サイマルアカデミー、アイ・エス・エス、コングレ・インスティーテュート。この4つの学校は、会議運営会社の併設校として設置されていますので、いわゆるOJT(オンザジョブトレーニング)の機会が多いです。
――最近の日本において、中国語通訳の需要はどのような状況ですか。
まず、一般企業の場合、プロの通訳者要請は減少傾向にあります。各企業が中国人を正社員として雇用して、内部で通訳させるようになっているからです。そのため、商談会など大型プロジェクトの際にだけ、プロの通訳者に来てもらうようになっています。
次に、公共団体や政府関係などの場合は、政治的配慮から、日本人通訳者を希望することが多くなっています。
また、国際会議の場合、一定のニーズはありますが、難易度が年々上がっていくので、同時通訳者の希望が多いのが現状です。
――日本で、中国語通訳者の資格・検定試験を受けるのは多いですか
2002年の受験者573人から毎年徐々に増えています。特に2006年に2229人に達し、約5倍になりました。2007年~2010年までの3年間は、ほぼ同じぐらいで1500人前後です。合格率は2007年の20.5%以外は、だいたい10%となっています。
2009年は中国人個人ビザの解禁に伴い、中国語通訳ガイドの需要が急増しましたが、2011年の東日本大震災の影響で観光客が激減しました。
――日本では、通訳の報酬はどうなっていますか。
エージェントによって報酬に格差もありますが、目安として、時給5000~10000円、半日では(4時間まで)20000円~50000円、1日の場合は(8時間まで)30000~80000円と言ったところです。また、同時通訳も逐次通訳も同じ料金の場合もあります。
――日本における中国語日本語通訳業界の問題点をどう見ていますか。
希望者は多いが、プロで活躍できるのは氷山の一角です。ボランティア、アテンド、観光ガイドレベルの通訳は多数いますが、同時通訳者は不足しています。また、通訳を養成できる教員が不足していることもあり、新人がなかなか育ちにくいです。
それから、報酬が不安定なので、フリーの通訳者で生計をたてていくのは難しいです。そのため、通訳者には女性が多いです。
英語通訳の場合、通訳者はかなり分化していますが、中国語通訳はまだ英語ほど需要がないのが原因のかもしれませんが、ほとんど専門分野が分かれていない状態です。
――通訳現場のノウハウ、そして、緊張を解消する方法があれば、ぜひコツを教えてください。
同時通訳の場合、日本では60%程度訳せていれば御の字と言われています。1日の同時通訳は、普段は2~3人でコンビを組んで対応しますので、自分の当番でない時も、必ずメモをとりながら、通訳者が聞き漏れしたり、表現につまづいたりした時、さっとメモを見せてヒントを与えるようにするチームプレイが大事です。
緊張解消法についてですが、原稿がある場合はそれほど緊張しませんよね。原稿がない場合、どんな話が出てくるのか予想できないので、やはりドキドキしますよね。特に新人であればあるほど、緊張はします。その気持ちはよく分かります。これには、やはり心臓に毛を生やして、勇気を持って取り組んでいくことですね。
――最後に、通訳者たちへのアドバイスや、メッセジーを一言お願いします。
普段から常に新しい知識を取り入れ、母国語の能力を鍛えることです。なぜかと言うと、自分にとっては外国語は絶対に母国語を越えられないので、母国語の能力アップは大事だと思います。
良い通訳をすると、お客さんから感謝の言葉が述べられます。その時はとてもやりがいを感じますし、通訳の仕事の魅力でもあると思います。
これからもいろいろな現場で皆さんの活躍する姿を楽しみしています。
(整理:トントン)
【プロフィール】
古川典代(ふるかわ みちよ)さん
大阪外国語大学中国語学科卒。上海復旦大学公費留学、関西大学文学修士。大阪外国語大学、立命館大学、大手通訳学校の講師などを歴任し、現在は神戸松蔭女子学院大学准教授。2011年度は北京外国語大学にて研究留学中。
| ||||
© China Radio International.CRI. All Rights Reserved. 16A Shijingshan Road, Beijing, China. 100040 |