■次のテーマは石版年画
――今回、中国は『木版年画集成』の編纂を民間文化遺産保護プロジェクトの重点に位置づけていますが、この取り組みをどのように受け止めていますか。
今回は、中国木版年画の保護に向け、まずは現状を把握しておくということで、全面調査が行われたのです。総括式で、「これが終わりではなく、この総括から我々がまだ先の仕事をしなければいけない」、と、すごく前向きな発言がありました。
実は、日本でも伝統工芸品の作り手を政策的に保護することが行われました。しかし、保護された後、彼らの作るものがどうなるのか、売れる物を作っていればいいのか、などといろんな問題もありました。日本でもまだ問題がある「保護」を、中国としてこれからどう発展させていくか、私としてはすごく楽しみに見ていたいと思っています。
――一方、日本に保存されている中国年画は、いま保存上の課題は?
遠慮なく言えば、博物館や美術館は保存状態が非常に良いのです。収蔵庫の温度や湿度の管理はベストの状態ですが、学芸員が何も知らない美術館や博物館があります。私たちとしては、貴重な文化財なので、大勢の人に理解してもらいたいと思っています。ただ、それは、学芸員たちだけに責任を押し付けるのでは、やはり酷なので、研究者の私たちにも責任があると思います。
――「日本巻」の完成で三山さんにとって、中国木版年画の整理作業が一段落したかと思いますが、今後の目指す方向は?
日本にはまだ私がつかんでいない収蔵品もあるかと思います。今回は本を作るのに急ぎましたが、もう一度、日本に収蔵されているものをすべて網羅した目録を作っておかないといけないと思っています。
それから、中国では、木版年画が西洋印刷に変わってきた時に、石版印刷の年画もずいぶん出た時期があります。その石版年画も日本でかなりの数が収蔵されており、すべて戦前に収集されたものです。これはまだ全然無視されています。
石版年画は、見た目ちょっと色がどきつくて、紙も洋紙を使っていて酸化が進んでいるので、まあ、見た目が汚いですね。だけど、これが印刷技術が変わっていく社会と共に、年画も変わっているという一つのスタイルなので、これも日本に収蔵されているものをきちんとまとめたいですね。
(聞き手:王小燕)
【背景】中国木版年画保護プロジェクトについて
旧正月に飾る「年画」は、中国人の文化や暮らしでたいへん重要な地位を占めており、その歴史は千年前に遡ることができます。中国木版年画保護プロジェクトは、中国民間文化遺産保護プロジェクトの中で、最初に作業を始めたもので、9年前に、中国民間文芸家協会が主導して作業を始めました。
9年間にわたって中国全土及びロシアや日本で全面調査を行なった結果、この春、全部で22巻からなる『中国木版年画集成』全巻の発刊が終了しました。文字原稿300万字、写真1万枚余り、映像16時間余りからなる百科事典並みの厚さになりました。中には、中国全土の主要木版年画産地20箇所のほか、ロシアや日本に伝わった収蔵品の巻も含まれています。また、『中国木版年画伝承人口述歴史叢書』(全14冊、対象者19人)も合わせて出版されました。4月半ば、プロジェクトの成果発表会と表彰式が北京の人民大会堂で行なわれました。
中国民間文芸家協会は、中国では無形文化遺産保護の主力として知られ、主として研究者、専門家、民間文学や芸術活動に携わる人からなっています。今回の全面調査は、年画を単なる郷土美術というよりも、今もなお生きている無形文化遺産としてとらえたところが大きな特徴となっています。そのため、主な調査内容には以下の10項目が含まれています。
すなわち、生産地の歴史、村落の文化的環境、代表的な作品、残されているものの分類、貼り付ける時の技法、制作プロセス、道具と材料、伝承系統、販売範囲、関連の言い伝えと物語などです。言い換えれば、人類学、民族学、歴史学、芸術学、美学などを網羅した総合的な角度で行なわれた調査になりました。
また、保存形態について、従来の文字と写真のほか、録音やビデオも取り入れて、より生き生きと、立体的な記録ができるよう心がけてきました。
関係者によりますと、木版年画に対してかくも大規模で、全面的、網羅的にフィールド調査を行なったのは、中国では初めてのことです。なお、調査で入手した原資料はすべて「中国木版年画データベース」の一部として保管されていくということです。
(文:王小燕 写真:韓氷)
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