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日本人スタッフのつぶやき141-枇杷膏的記憶・序(1)

2012-04-12 12:31:25     cri    

 天安門を通るおびただしい数の自転車と、若草色の人民服。

 毛沢東に…パンダにシェイシェイ(謝謝)?

 ああ、それから兵馬俑に三国志。

 水滸伝に万里の長城でしょ。

 そうそう、それに枇杷膏(びわシロップ)ね…

 1993年初夏、私は成田から北京へ向かう飛行機の中に居た。

 見渡す限りの雲海が広がるその窓の外の白いカンバスに、私はありったけの中国を思い映していた。

 「隣の国なのに、意外と知らないもんだな」と思う。

 中国の自転車といえば、私はソレを思い浮かべるたびに、一昔前の新聞配達屋さんのちりんちりんという妙に軽快な音が脳裏をよぎるだけだったし(つまり私にとっては昭和ノスタルジー的な感覚に近かったのだ)、毛沢東についてはその細かい風貌、そう、例えば髪型なんかは到底思い浮かばなかった。

 万里の長城って何?と聞かれたら、異民族からの侵略を防ぐための壮大な何かであったことは多少の中国書物を読んだことのある者であれば想像に易いが、具体的な形状については無念ながら、社会科の教科書に載っていたせいぜい2×3cmほどの白黒写真がかろうじてその姿かたちの手がかりとなっているのみで、いまいちフォーカスに乏しいとしか言いようが無かった。

 この2時間、じりじりと脳の裏側が焦げ付くほど中国について想いをめぐらせ、「知識」と呼ばれる自らの人生の棚を必死に覗き込んでみるが、14年しか生きていない私の海馬には、それほど多くのことは刻まれていなかった。

 雲海に浮いては消えるイメージさえ、ひどく曖昧でまどろみを誘うほどぼんやりしたものに違いなかったのだ。

 「お姉ちゃん、お姉ちゃん!新しいお家、マンションの中にプールがあるんだって!」

 雲海の下に広がる果てしない大地のことよりも、妹はまだ知りえぬ国への希望にあふれ、目を輝かせてそう言った。

 先月10歳になったばかりの彼女にとって、その国は新しいファンタジーの始まりなのだ(が、その「プールのファンタジー」はそれからわずか数時間後に打ち砕かれることになるのは皆様にも少々心の準備をしていただきたい)。

 飛行機はもう、中国の広大な大地の端を捉えている。

 (中原の「つぶやき」コーナーは、今月よりその半生を北京で過ごした一日本人のちょっとしたフィクション・ストーリーとなっています。主人公の「ナカハラ」は、私中原美鈴とは別人物ですのでご注意を。)

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