たがいの違いを認め合うことで 日中関係は大きく前進する!!
王敏 法政大学教授
1954年中国河北省承徳市生まれ。大連外国語大学日本語学部卒、四川外国語学院大学院修了。文化大革命後、大学教員から選出の国費留学生として宮城教育大学で学ぶ。主な著書に「日本と中国 相互誤解の構造」(中公新書)、「日中2000年の不理解―異なる文化『基層』を探る」(朝日新書)、「謝々!宮沢賢治」(朝日文庫)、「宮沢賢治・中国に翔ける思い」(岩波書店)、「中国人の『超』歴史発想」(東洋経済新報社)、「日中比較・生活文化考」(原人舎)、「中国人の愛国心―日本人とは違う5つの思考回路」(PHP新書)など。
法政大学教授の王敏氏は来日して以来、日中の比較研究をつづけてきた。曰く「一見すると同じ文化でも、まったく異なることがある」と。たとえば、漢字の使い方や意味合いは日中間で大きく異なるという。そして、王氏はそういった違いを知ることがこれからの日中関係にとって重要なカギになるという。さっそく、その真意を聞いてみた。
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聞き手は張国清北京放送東京支局長である。この取材内容は日本東方通信社の週間雑誌「コロンブス」2008年12月号に掲載されている。
張国清:王さんはいつ来日したのですか。
王 敏:私は82年に研究生として来日しました。当時はまだ冷戦時代だったこともあって、イデオロギーの問題で文化系の人間が日本に行くことは少なかったです。ですから、文化系の研究をしていた私は、非常に珍しい存在だったと思います。それに、今振り返ってみると、当時の留学生と今の留学生は雰囲気が変わったように感じます。やはり当時の留学生は国家のためにというのが第一義でした。実際、当時は私もそのように思っていました。ですが、今はまずは個人がシッカリと自立することが大事だと思っています。一個人として十分な教養や知識がないと、国家のために役立つことなんて到底できませんから。
張:来日してどのようなことに驚きましたか。
王:何よりも同じ漢字を使っているのに、その使い方や意味合いが異なることに驚きました。中国にいた頃は、日本は同じ文字を使っている国なのだから考え方もお互いに近いだろうと思っていたのです。ところが、実際に来てみると、イロイロと違うことが出てきました。そこで、私はこうした違いに興味を持ち、研究テーマにしたのです。
張:現在はどのような研究を行っているのですか。
王:カンタンにいうと、日中関係を生活、文化、社会などの分野から比較していくというものです。そして、あることに気づいたのです。中国における思想の位置づけのかわりに日本には「美」ということばがあり、これが日本人の価値基準にあると考えるようになったのです。たとえば、日本人は贈り物などを実にキレイに包装します。また、茶道や華道といった文化も日本的な美の象徴だと考えられます。トイレひとつとってみても、日本では便座にカバーをつけたり、便座を暖めたりしますが、これはアメリカにもヨーロッパにもない文化です。
多くの国は価値基準として、思想、理念、政治、イデオロギーなどを掲げていますが、日本はあまり思想や理念に関心を持ちません。それ以上に美に対して執着しているのです。ちなみに、この価値基準はモノづくりの世界にもあらわれています。たとえば、日本人が自動車製造から細かい部品の製造までをシッカリと行うことができるのは、まさにこの美という価値基準があるからなのです。 機能美というコトバに表れていますよね。
張:そのほか、日中間にはどういった違いがありますか。
王:たとえば、愛国心という言葉があります。中国でも日本でも愛国心という漢字は同じで、辞書に載っている意味も同じです。しかし、その言葉が持っている意味合いはけっして同じではありません。第二次世界大戦を経験した日本人にとって、愛国心という言葉はおそろしいニュアンスを含んでいるのです。そのため、多くの日本人が愛国心という言葉を反射的に敬遠します。海外から見ると実に不思議なことです。誰だって自分の国を愛するのは当然だと思っていますから。しかし、日本人のなかには戦時中に使用されていた愛国心という意味合いが今もシッカリと残っており、その意味合いに対して反発してしまうのです。
張:ところで、最近の金融不況についてはどのようにお考えですか。
王:アメリカが主導してきた金融工学の崩壊を意味していると思います。つまり、経済で画一的なグローバリゼーションをすすめようとした結果、うまくいかなかったということです。たしかに、経済によるグローバリゼーションは多くの人たちの生活を豊かにしました。が、同時にそれぞれの地域の文化や個性を無視してしまったのです。これが大きなヒズミをつくってしまったのだと思います。これからの時代はそれぞれの地域が発展しながらも、その特色をシッカリと残していかなければなりません。それが本当の意味でのグローバル化になるはずです。また、たがいの特色を尊重していくことは安定した秩序をつくりだします。そうすれば無用な戦争が起こることもなくなるはずです。違うということを通じて、たがいを尊敬していけばいいのです。 それはもちろん、日中関係についてもいえることです。たとえば、食品問題などについても、中国はまだ発展途上国なのですから、日本にはもう少し温かく見守ってほしいと思います。現に、日本だってかつては中国と同じような過ちを犯したことがあったはずです。もちろん、中国側もそれに甘んじることなく、最善の努力をつねにしなければなりません。
張:なるほど、たがいの相違を認め合うことが本来の友好関係につながっていくわけですね。本日はどうもありがとうございました。
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