ナビゲーター　黄競

　冬、中国北方の広々とした草原、森林は真っ白な 雪に覆われます。この果てしない雪原には多くの心を揺さぶる音楽と物語があります。今回の中国メロディーはその中からいくつかの素晴らしい 音楽作品をお送りします。

毛沢東の詩作「沁園春 雪」

　「北國風光 千里冰封　萬里雪飄　望長城内外　惟餘莽莽（北国の風景　はるか彼方まで　氷に閉じられ　万里の彼方まで　雪が風に吹かれ　ひらひらと舞っている　万里の長城の内と外を望めば、広々と果てしない」

　これは毛沢東が1936年2月に創作した詞「沁園春 雪」の中の一節です。毛沢東は偉大な指導者であり、偉大な詩人でもあります。「沁園春 雪」は毛沢東の数ある作品のなかで最も有名なものです。この詞は彼が軍隊を率いて抗日戦争の前線に赴く途中、海抜1000メートルの雪原に登り、山河を眺め、詩興が湧いて創作した作品です。

　「須晴日　看紅裝素裹　分外妖娆（晴れた日には、太陽の赤い光が雪の上で燃え、赤と白と、まるで美人の衣のようにあでやかに映えることだろう）」という句は太陽に輝く雪の景色を女性の美しい衣服に例え、これと祖国讃美と結びつけています。作者が多彩な景観に統一感を与えた作品です。有名な詩人・臧克家は「毛沢東の詞は叙事詩のようで、人々を非凡な境界へと誘い、革命の現実主義とロマンをうまく融合した」と評価しました。

　毛沢東のこの詞を元に作った同名の合唱曲「沁園春 雪」はこの偉大な人物の迫力と広い心を音楽で再現しました。劉秉義、殷秀梅など有名なテノール歌手やソプラノ歌手もこの曲を歌ったことがあります。

天山の最も美しい花「氷山の雪蓮花」

　氷と雪に覆われた天山山脈に、ある花が凛と咲きます。雪蓮花（せつれんか）と言う花です。激しい嵐と大雪の中で咲く雪蓮花は、信念と勇気で咲き誇る命の花とされます。新疆ウイグル自治区の人々は、雪蓮花が天山の最も美しい花で、純潔な愛情と友情を象徴していると考えます。

　「氷山の雪蓮花」は1963年に上映された映画「氷山からの客」の挿入歌です。映画は新疆ウイグル自治区の駐屯地を舞台に人民解放軍が地元の人々とともにスパイの陰謀を見破り、匪賊を倒す話です。「氷山の雪蓮花」という歌は、タジク族の青年・カラが匪賊の根城に潜入し敵情を偵察した時、下僕として虐められるタジク族の娘・グランダンムと出会い、彼女に早く脱出するようにと歌ったものです。歌は真摯な友情を気高い雪蓮花に例え、ドゥタル、レワープといった民族楽器でタジク民謡風のメロディーを奏で、ヒロイン・グランダムの心の苦しみをありありと表現しました。今、この曲の美しく悲しいメロディーは40代以上の中国の人々にとって共通の懐かしい思い出です。

「樹海を通り抜け、雪原を越え」

　「智取威虎山（智恵で威虎山を奪取する）」と言えば、30代以上の中国人はそのどきどきはらはらするストーリーに引き付けられるのではないでしょうか。これは、人民解放軍の一部隊が1947年に反革命匪賊の立てこもる威虎山に攻め入り、この土匪の根拠地・威虎山に潜入する英雄・楊子栄とともに、これを奪取する話です。

　この劇は、もとは曲波の「林海雪原」という小説で、1960年代には盛んに舞台化され、8つの「様板戯」（革命模範劇）の一つとなりました。1960年代末、文化大革命の影響で、ラジオやテレビは毎日8つの革命的模範劇を繰り返し 放送しました。この時の中国人の人口は約8億人でしたので、「8億人に8つの芝居」と言われました。その中でも、京劇「智取威虎山（智恵で威虎山を奪取する）」やバレエ「紅色娘子軍(赤い女子軍隊)」と白毛女（はくもうじょ）」は革命模範劇の代表作となりました。

　特に、京劇「智取威虎山（智恵で威虎山を奪取する）」では英雄・楊子栄が一人で土匪の根拠地・威虎山に潜入するスリル満点の アクション、どきどきハラハラするストーリー、そして英雄・楊子栄と土匪のリーダーの座山鵰との機知に富んだ会話などが今でも楽しげに語られます。

　劇中の歌「迎来春色換人間（春を迎えて政権が交代する）」は非常に有名です。その中で「穿林海、跨雪原（樹海を通り抜け　雪原を越え）」という歌詞が流れますと、ほぼすべての観客がメロディーに合わせて口ずさんだと言います。

番組の中でお送りした曲

　1曲目～　沁園春 雪（しんえんしゅん　ゆき）

　歌詞：

　　北国の風景

　　はるか彼方まで、氷に閉じられ

　　万里の彼方まで、雪が風に吹かれ、ひらひらと舞っている

　　万里の長城の内と外を望めば

　　広々と果てしない

　　黄河の上流や下流は

　　突如その流れを止める

　　山では銀の蛇が舞い　野では白い象が駆ける

　　もし天まで登れば

　　お日様と、高さ比べをしたいかのよう

　　晴れた日には

　　太陽の赤い光が雪の上で燃え

　　赤と白と、まるで美人の衣服のように艶やかに映えるだろう

　2曲目～　冰山上的雪莲（氷山の雪蓮花）

　歌詞：

　　砂漠の中の泉、氷山の雪蓮花よ

　　嵐が永遠に続くことはなく

　　いつ君の笑顔が見られるのか

　　黒い雲が氷山を覆い

　　嵐が砂漠を通り過ぎ

　　喜びは氷山に圧倒され

　　私の涙がサリル高原の地を裂く

　3曲目～迎来春色換人間（春を迎えて政権が交代する）

　歌詞：

　　樹海を通り抜け

　　雪原を越え

　　気概が天空に響き渡り

　　赤旗が世界で翻るのを願い

　　困難や危険を 厭わず

　　春を迎えて政権が交代する