北京
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第19回アジア競技大会(杭州アジア大会)陸上は29日に幕が開く。この記事では筆者が注目する選手をご紹介。二人目は800mの塩見綾乃。塩見はこれまでの競技人生で800m以外にも200m、400m、1500m、3000m、さらに駅伝までも走っていて、取材前に「とにかく走ることが好きな人」という印象を受けた。そんな塩見は今、日本女子が800mでまだ成し遂げていない「2分の壁」を破れると期待がかかる選手だ。取材当日は合宿中で、練習の合間に取材に応じてくれた。「よく笑い、よくしゃべる」と自身のキャラクターを伝えてくれたように、取材中は終始笑顔が光っていた。
笑顔で取材に応じる塩見綾乃
トラックの格闘技800m 「私のレーンや、どいてどいて!」
800mはスピードも持久力も必要な難しい競技だと教えてくれた塩見。本人はスピードタイプだが、スピード派と持久力派の選手が競うところや、レース展開が急激に変わったり、選手同士が駆け引きしているところが800mの見所だという。レース中に他の選手と腕や足がぶつかり合うこともしばしばで、塩見は「私のレーンや、どいて、どいて!」という気持ちで走っているという。
レース中の塩見(写真 岩谷産業提供)
「もともとは気が弱いほうで誰かと接触すると怖くてよけてしまっていましたが、海外のレースでその隙にどんどん抜かれる経験をしました。それ以来、萎縮する気持ちはレース中には出さないようにしています」
競技を通して強い心も鍛えているようだ。
ルーティーンは作らない
普段の生活では食事や睡眠に気をつけているものの、ルーティーンはむしろ作らないほうがいいと塩見は断言する。
「海外の試合などでは、いつも通りのことができないことも多く、そのことに焦ってしまうので、ルーティーンは作りません」
海外の試合にも多く出場する選手にはその場その場での対応力が求められるようだ。
中国の選手を意識して走る
「以前は背が高く、足が長くて強い選手がいて注目していましたが、最近は二十歳前後の若い選手の勢いを感じています。杭州では中国の選手を意識して走ろうと思います」
中国選手の印象を聞いたところ、体格の良さと、若い選手への注目を語ってくれた。今回のアジア大会ではともに二十歳の饒欣雨や呉洪嬌と塩見が競り合うかもしれない。
中国の夜景を楽しみに
塩見は今回のアジア大会で初めて中国を訪れる。中国のイメージについて聞いてみた。
「これまでイメージはわかなかったんですが、アジア大会の団結式で杭州の紹介映像を目にしたとき、こんなに夜景がきれいなところなんだとびっくりしました」
杭州の夜景のほか、おすすめの場所や土産物にも興味を示してくれたので、杭州といえば、西湖、そして龍井(ロンジン)茶をおすすめした。初めての中国、杭州で競技以外でも中国を味わってもらいたい。
社会人アスリートとして
塩見は大学を卒業後、岩谷産業株式会社の陸上競技部に所属した社会人アスリートだ。
週3日ほど午前中はオフィスで事務作業をしている。この環境で選手として競技に取り組む心持ちを聞いてみた。
「今回も合宿で2週間は勤務していませんが、会社は陸上部に理解があるので、仕事もやりつつ陸上を優先してねと言ってくれます。学生のときは社会人になっても、やることは変わらないし、結果を出すことを目標にしていけばいいと考えていました。でも、いざ社会人になってからはお給料をもらって走らせていただいているので、会社を背負っているという責任も感じながら競技に取り組んでいます」
アスレチックスチャレンジカップ陸上2022で優勝後インタビューに応じる塩見(写真 岩谷産業提供)
「2分切り」 オリンピックで戦える選手になる
塩見にとってアジア大会はパリ五輪のために、できるだけ上位と記録を狙う必要のある重要な大会だ。大会に向けての意気込みと今後の目標を聞いてみた。
「アジア選手権は5位という結果でした。遠いかもしれませんが、アジア大会ではメダルを狙いたいです。アジア選手権で自己ベストを出さないとメダルには届かないと感じたので、自己ベストを狙いつつ、3位以内を狙います。また、今後の一番大きい目標としては日本女子初の『2分切り』、そしてオリンピックに出場して、戦える選手になりたいです」
笑顔からきりっとした表情で達成すべき目標を明確に示してくれた。
2022年日本選手権で優勝しメダルを手にする塩見(写真 岩谷産業提供)
塩見は最後に「ラストの200mからのレース展開も必見ですが、私は前半を飛ばしていくタイプなので、今回のアジア大会では最初の飛び出しにぜひ注目してほしいです」と力説。塩見が飛び出したら、一緒に「塩見のレーンや、どいてどいて!」とゴールまで応援したい。(文 小林千恵)