「蚕の仕返し」
唐の咸通年間、洛陽地区は飢饉に見舞われたことから、穀物などの値はものすごく上がり、溝や畦道などには飢え死にした人々の亡骸が多かった。
そして蚕を飼う季節になったが、桑の葉はほとんどが虫に食われたので、その値も驚くほど高くなった。
さて、新安県慈間店の北にある村に王公直という男がいた。王公直は蚕を飼っていて、家の庭には十数本の桑の木が植えてあり、桑の葉は幸い虫に食われてはいなかった。そこで王公直は妻と相談した。
「こんな飢饉の年に出くわし、家の食糧も少ないので、養蚕なんかに励んでも儲かるわけがない。それに今は桑の葉が高く売れるので、いっそのこと全部売ってしまい、その金で一ヶ月分の穀物や食べ物を買い、秋までどうにか暮らそう。そうすれば秋麦の取り入れどきとなる。こうしないと秋まで腹をすかすことになるぞ」
これに妻も頷いた。こうして翌日、王公直は飼っている生きた蚕をなんと土の中に埋めてしまい、桑の葉を全部取って町の市で売り、三千文という銭を手に入れた。そこで豚肉や饅頭、それに他の食べ物を買って家に帰ろうとしたが、町の出入り口の徽安門に来たとき、門番が王公直が下げている袋から血がぽたぽたと流れ落ちているのを見つけた。
「おい!そこの男、お前は袋に何を入れているのだ?血が流れているぞ!」
「え?血が?」と王公直が袋をみると、確かに血が流れ出ている。驚いた王公直がうろたえているので門番が怖い顔で何をしてきたと聞く。
「ええ。おいらはうちの桑の葉を町で売って、骨付きの豚肉、それに饅頭などを買って帰るところです。なにもしてません」
「なにをいう!袋を開けてみろ!」と門番がいうので王公直はおとなしく袋を開けた。すると買った骨付きの豚肉が血を流す人間に左腕に変わっているではないか!これに他の門番も驚き、何人かで不思議な顔をしている王公直を捕らえて役所に突き出した。そこで役所は「殺した人の腕を切り落とすとはむごいやつ」と決め付け、王公直を河南地区の長官に引き渡した。
こうして長官自らの裁きが始まったが、当の王公直には何のことかさっぱりわからず、ただ桑の葉を売って豚肉を買ったことだけだと言い張る。そこで長官、「お前は人を殺したのになにをいう!白状しろ」と迫る。そこで王公直は、蚕を埋めただけで人殺しなんてとんでもない。家に言って調べてくれと頼んだ。もちろん、長官は下役人を王公直の家に遣り、泣きじゃくる王公直の妻をほったらかして調べたが何も出てこない。そこで蚕を埋めたというところを掘ってみると、なんと左腕のない人の亡骸が出てきた。さあ大変、こうなっては証拠十分だということになり、王公直は死罪となった。しかし、誰が殺されたのかはわからない。それでも処刑するというので、王公直が懸命に言い訳すると、長官は「何をほざく!人殺しでなく、天地の霊とも言われる蚕を生きたまま埋めてしまうことはゆるされん!」と処刑の日は、硬くて長い棒で王公直を打ち殺してしまったわい。やれやれ!
と、その翌日、役人が殺された人の亡骸を見に行くと、なんと腐った蚕になっていたという。
そろそろ時間です。来週またお会いいたしましょう。
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