「旦那さま!大変だ!旦那さま!大変だ」
この声にケチ親父はびっくり。
「なんじゃい!いったいどうしたというのだ?」
「一頭の牛が山の洞穴に入りこみ出てこられなくなりました!」
「なんじゃと?それは本当か?」
「本当です。旦那さま。うそはいいません」
「本当だな!」
「旦那さまが信じないのなら、いまから自分で見に行きますか?」
これを聞いたケチ親父、時は夕暮れだが、一頭の牛もなくしたくはない。そこでアバオと行くことにした。
「はやくそこへ案内しろ」
こうしてケチ親父はアバオについて山に入り、崖っぷちの小さな岩山に来た。みるとその岩の後ろの割れ目から牛の尻尾がでており、岩の前の割れ目から牛の頭が出ている。それも角、口と鼻しか見えない。
「いったいどうしたんだ?これは!」
ケチ親父がこういっているうちに岩の割れ目にはまってしまった牛が「モー!モー」と鳴いている。
「旦那さま。実はこうなんです。これはとても短い洞穴なんです。今日の午後、二頭の牛がどうしたことか格闘し始め、そのうちにこの一頭が逃げ出したのですが、それを追ってもう一頭がこの小さな岩山まで追ってきたんです。逃げ道をなくしたこの牛は前に小さな洞穴があるのを見て逃げ込んだのですが、穴が小さく頭は入ったものの、体が入らない。そこへ追ってきた一頭が、うしろからその牛の体に思い切りぶつかったので、その牛の体が洞穴にドンと入り、頭の前の方、つまり角、口と鼻が洞穴の前口から出てきました。こうして、洞穴の後ろには尻尾だけが見えるようになったのです」
「そうか」
「そうです。この牛はいまは身動きできなく、困っているんですよ」
と、このとき、牛の鳴き声がまた聞こえた。実は、この鳴き声は牛ではなく、近くに隠れている動物の鳴き声をまねるのがうまい作男の声なのだ。牛はみんなに食べられてしまい、これは頭と尻尾だけをのこして、ケチ親父を騙すために仕組んだ芝居がはじまっていたのだ。
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