さて、その翌日から、元自虚のところに老人が来て、これから何々が起こるから気をつけるようにという。元自虚、はじめはこの老人はおせっかいなことだなと知らん顔していたが、なんと老人の言ったことはほんとに起こった。こうして元自虚はいくらか助かったが、まもなく屋敷では夜におかしなことが起こり始めた。それは、誰かが屋根にすわり、長い足を垂れているとか、何人かの者が空中を歩いているとか、ある女子が赤子を抱いて物乞いに来るとか、または、怪しげな美人が月の明かりの下に、庭に座って笑っているとかである。もちろん屋敷の人々にとっては気味が悪いので、引っ越そうと元自虚にいうが、元自虚は首を縦に振らない。するとどこからか、変わった顔をした長老が屋敷に来て言う。
「長官さま、実はこの屋敷の裏山に祠がございましてな。この屋敷にもと住んでた長官さまや家族は、常に祠にお参りし、供え物をしたものです。長官さまはそうしておられますかな」
「いや、それに裏山にそんなものがあることも初耳じゃが」
「そうでございますか。私めの聞くところによれば、元の長官さまがそうされたからこそ、お屋敷は安泰だったと・・ですから、これからは元の長官さまに学ばれては?」
「うん?考えておこう」
元自虚はこう答え、この客を送り出した。実は元自虚はそんなことは信じなく、いくらか腹を立てていた。すると、かの肖という老人が翌日ふと現れた。
「これは長官さま、私めは数日遠くに住む友達を訪ねていきますので、わしがいないときに、すみませんが、あの林の中の杉の木に近寄らないようお願いしますよ」
「うん?どうしてかな?」
「実はわしの家族は林の中にある家に住んでおりますのでな」
「ほう、家族とな、これまで誰一人として見てはおらんが」
「それはみえませんわい。見えたらあんたたちが大変なことになる」
「え?」
「ま、そんなことはどうでもよろしいでしょう」
「うむ。で、少し聞くが、昨日、地元の長老がまいってな。この屋敷で不思議なことが起こるのは、裏山にある祠に供え物をしていないからだと申してな」
これに老人は目を鋭く光らせて答えた。
「何が長老でござる。奴のいうことなど信じてはいけません。あの祠はほっときなされ。供え物などしなくても害はありませんから。もう一度いいますが、あの林の中の一本だけある枯れた杉の木には近寄らない方がいい。というのは先日、お宅の屋敷の方が杉の木に登っておられましたからな。いいですか。くどいようだが、あの杉の木には近寄らないように」
「杉の木に近寄らないようにとな?」
「いかにも」
老人はこういうと姿を消してしまった。そこでその杉の木に登ったという屋敷の者を探し聞いてみた。するとその者は身震いして言う。
「旦那さま。あの枯れた杉の木は気味が悪うございます」
「なにが?」
「実は、私めが登ったのはあの林に芝刈りに行きましたので。そして風が吹き、かぶっていた笠が飛んであの木の枝にかかり、木に登って笠を取ろうとしたのでございます」
「それで?」
「木に登りますと、中が空になっていることがわかり、それに中から何か気味が悪い声が聞こえますので、私めは怖くなり、笠も取らずに木から下りて早足で屋敷に戻りました」
「なに?中から気味の悪い声が聞こえた?」
「はい。なにか化け物のような」
「化け物?うーん。よし」と元自虚は肖という老人が言ったことを忘れ、早速、かの長老を呼んで来て、いったいどうしたことかと聞いた。すると長老は肖という老人が自分の言うなど信じるなと元自虚に言ったことを知っていて、忌忌しそうにしゃべり始めた。
「ふん、その肖という老人には気をつけなされよ。人間ではありますまい」
「そ、そうかな」
「それにあの杉の木には妖怪が棲んでおりますので、何とかはやく始末しないと、長官さまのためになりますまい。もしかしたら大変なことに・・」
「え?大変なことに」
「さよう、早くしなされよ。はやければはやい方がいい。というのはその老人は今は遠くにおりますゆえ」
「なんと。そこまで知っておられるのか」
「もちろん、奴は私の仇ですからな」
「え?仇?」
長老はこれには答えずあたふたと屋敷を離れていった。そこで元自虚は屋敷の者を数人連れ、かの枯れた杉の木を見にいった。見るとその木はかなり太いが枯れているので幹のほかは枝しかない。叩いてみると中が空なのか、音がちがう。それにどうも中に何かいるらしく、耳を当てるとおかしな声が聞こえ、それに獣のにおいがする。これに屋敷の者たちは驚き、怖くなって後ずさりした。もちろん、元自虚はぎくっとした。どうも恐ろしいものが中に潜んでいるらしい。そこで元自虚は考えた。
「こんなところに危ないものがいるのは物騒だ。あの肖という老人はほっておけといったが、中のものがいつ出てきて屋敷に災いをもたらすかもしれん。そうだ!あの長老はこの木を速く始末しろといい、速ければ早いほうがいいと申したな。うん、いっそのこと、いま、この木を燃やしてしまおう」
こう決めた元自虚は、屋敷の者に油や布切れを取りに帰らせ、また乾いた枝などを集め、この枯れた杉の木を焼き始めた。すると中なら恐ろしい悲鳴が聞こえたので元自虚らはあわてて屋敷に戻っていった。
さて、数日後の昼過ぎにかの肖という老人が血相変えて屋敷に来て叫んだ。
「この愚か者めが!杉の木には近づくなと言っておいたのに。わしの仇の長老の言うこと聞きおって!体の悪いわしの妻と幼い子たちを焼き殺してくれたな!あの長老はすでにわしがかみ殺した。今度はお前と屋敷の者の番だ!!」
こういい終わると老人は恐ろしい虎に変わり、元自虚に襲い掛かった。幸い、元自虚は必死で逃げたが、妻や子供、それに屋敷の者はすべてこの虎にかみ殺され、残るは元自虚一人となったそうな。
こわいですねえ。
そろそろ時間です。来週またお会いいたしましょう。
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