それぞれの都市には、その都市ならではの「顔」があるとよく言われますが、北京の「顔」と言えば、皆さんは何を思い出しますか。ラジオを聴くリスナーの皆さんにとって、実際にこの目で北京を見ない限り、その様子を想像するのはちょっと難しいかもしれませんが、今日は中国の首都・北京という町の「音」に迫りたいと思います。皆さんの想像した北京と一致しているのかどうか、ぜひチェックしてみてください。
皆さんにとって、北京の音は何ですか。自転車の音?京劇の演奏?それとも北京放送の番組?
このほど、中国版ツィッターのマイクロブログでは、「北京の音」というアンケート調査に、古い北京の掛け声は何と1位に選ばれました。
昔北京では、商売している人たちは掛け声でお客さんを誘います。掛け声の内容も売る商品と密接に関わっています。リンゴ飴に似た「糖葫芦」(サンザシの串餡かけ)や豆腐、野菜など、商品の種類は様々です。志摩さん、日本では、昔、商売をしている人たちは町を歩きながら掛け声をしていたのですか。今日の番組では、北京の音と言われるいくつかの掛け声をご紹介します。
昔の北京では、旧正月の春節を迎える前、魚を売る人が急に増え、町を歩きながら新鮮な魚を売ります。また、北京は内陸都市ですから、川魚がメインで、そのうち、鯉は最もポピュラーです。鯉は中国で「学業の進歩」を象徴していますので、子供の出世を願って、鯉を買う家庭も大勢います。そのため、昔、北京の町では、旧正月に魚売りの掛け声はよく聞こえたのです。ちなみに、日本では、めでたいときに食べる魚の代表格は『鯛』「めで鯛、めで鯛」というわけですね。大相撲で優勝力士のお祝いの席にも必ず、片手では持ち上げられないほどの大きな鯛が添えられます。
次の掛け声は春にある旬の野菜、チャンチンと葱を売る掛け声です。中国では、春になると、「咬春(春をかじる)」という慣わしがあります。特に立春や春分の日に、春にある旬の野菜で作った「春巻」や「春餅」などの料理を食べる習慣があります。これも縁起を担ぐためなんですね。この季節になると、市場では、旬の野菜を売るこのような掛け声が聞こえます。
次の掛け声は夏に限るものなんですね。「酸梅湯」という梅ジュースを売る掛け声です。皆さんは北京の「酸梅湯」という梅ジュースを飲んだことがありますか。黒い色をして、ちょっと甘酸っぱくて、ちょっと焦げたような味のする飲み物ですね。「酸梅湯」はお湯と書きますけど、スープではなく、ジュースのことです。サンザシや梅、氷砂糖で作られた甘酸っぱい北京の夏の定番ジュースです。北京のレストランではほとんど売っていますね。ペットボトルの商品もあります。
実は北京の掛け声には、東西南北、それぞれの特徴があります。西にある西城での掛け声なら、語尾が長く伸びる傾向がありますが、南の地区では、そんな特徴がありません。と言うのは、昔、金持ちや高官たちは主に西城区に住んでいました。邸宅が広くて、掛け声を長く伸びなければ、遠くへ伝わりません。南地区は主に下町なので、そんなに伸びる必要はないというのです。場所と、町並みによって掛け声が変わるというのは面白いですね。日本のさお竹やさんだと、こんな感じかな?
では、次の掛け声は楽器のウッドブロックの音に似ているような音。確かにウッドブロックの音です。お寺や寺院ではよく聞こえますね。しかし、昔の北京では、これは朝ごはんの焼餅(シャオーピン)を売る音なんです。「焼き餅」と書きますけど、小麦粉で作ったパンみたいのものですね。中国の北方ではよく見かける食べ物で、定番の朝食でもあります。
では、これは?中国の時代劇によく出てくる、夜回りをして時を知らせる叩きの音に似ていますね。実は、これは夜回りして時を知らせる道具と同じものを叩いた音なんです。でも、目的は時を知らせるのではなく、ゴマ油を売る専用の音なんです。油は中国では料理に欠かせないものなのでしょうが、なかでもごま油売りという人たちが居たわけですね。油の中でも、値段が高く、いい商売になったんでしょうかね。実は、いま、北京の郊外へ行くと、このような道具を利用して音を出し、自家製のゴマ油を売っている人がいます。
では、これら北京の古い掛け声、どこで聞こえるのでしょうか。答えは博物館です。
消えつつある古い北京の掛け声を残すため、北京市唯一の区レベルの無形文化財保護センタ、東城区無形文化財保護センターは民間の掛け声を集めて、貴重な資料として保存しました。さらに、本やCDにもしています。
これはとても、いい取り組みですね。北京では、古いものを探す難しさを感じていました。町並みも、ほとんどが大きなビルやマンションで埋められて、路地裏とか、人々に生活のにおいが流れてくる場所が失われているような気がします。かつての暮らしの息遣いを残す取り組みは、とても貴重ですね、
また、無形文化保護センターは古い北京民間芸術団を組織し、出し物の形でこれら掛け声のショーを大学や繁華街などで定期的に行われます。このような古い民俗文化は外国人だけでなく、いま北京に暮らしている中国の若者にとっても、新鮮感たっぷりですね。
日本にも、東京の昭和の暮らし博物館とか、各地の博物館などで、昭和の様々なものを収集展示しています。先日なくなった小沢正一さんという人は、日本の消え行く芸能を個人的に収集することをライフワークにしていた。手間のかかる作業ですが、それらの過去のものや音に触れると、まるで、ふるさとに帰ったような安らぎと懐かしさを覚える。自分が生まれ、育った暮らしの原点が今によみがえって、息づくからだと思います。
もちろん、国際大都会としての北京、その音は昔ながらの掛け声だけではありません。人ごみの音やデパートやショッピングモールの音、娯楽施設の音などなど、いろいろありますね。では、皆さんにとっての北京の音は何でしょうか。或いは、皆さんが暮らしている町の音は何でしょうか。ぜひお便りかメールで教えていただきたいと思いますね。(3月7日オンエア「イキイキ中国」より)
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