北京市内の四合院 |
798芸術区 |
北京の東の郊外に、798芸術区というところがあります。ここは、中国と外国の芸術家のアトリエや住まい、ギャラリーが集中していて、中国だけでなく世界でも有名な芸術エリアになりつつあります。この芸術区と道路1本を挟んで、何各荘という村があります。2年前まではごくありふれた村だったのですが、住宅の賃貸業を通じて最近、大きな変貌を遂げています。
村には、平屋の住宅がずらりと並んでいます。中の1軒に入ってみると、敷地の真ん中に庭があり、それを囲んで東西南北の四方に部屋が設けられています。中国北方地区の伝統的な建築様式、「四合院」です。午後、日の光りを浴びながら、お茶を飲んだり本を読んだり、くつろいだ時間を過ごすのにぴったりのところです。しかし、家の持ち主に聞いたところ、ここは2年前までは農家だったそうです。
このような伝統的な様式を取り入れ、改造された家は、この村には20軒もあります。これまでは、世帯ごとにばらばらに住宅の賃貸をやっていたのを、村民委員会が一括して管理し、経営するようになりました。それによって、以前と比べ村民の収入は2倍から3倍も増えたということです。村民の1人、劉長財さんの話です。
「以前、自分で家を貸して家賃を得ていたのですが、年間の収入は2万元から3万元(日本円およそ26万円から40万円)だけでした。でも、村民委員会が管理して家を改造してくれた後、借り手が増え、年収は2倍以上も増えて、9万元(120万円)くらいになりました。村民委員会のこの政策は、私たちの生活を豊かにしてくれました」
劉さんがいう政策は、2007年にこの村で始まりました。それは、村民委員会が補助金を出して、村民たちが賃貸住宅に使っていた家を1軒1軒改造、装飾した後、また賃貸に出すというものです。
実は、この政策を提案したのは、長年、海外で仕事をしていたビジネスマンの呉運涛さんでした。呉さんは2003年、北京に戻り、この村で果樹園を請け負って果物の栽培と販売を行うとともに、西洋料理のレストランを開きました。
呉さんは、この村が緑に囲まれており、人口も少なく、昔ながらの家屋と道もそのまま残されていることに気が付きました。それに、村のすぐ隣に798芸術区があり、中国と外国の芸術家や芸術愛好家がたくさん集まっています。もし、芸術に携わる人たちをターゲットに、この村の住居を改造して賃貸業をやったらどうかと、呉さんは思いました。
「私は、この村に住んでもうすぐ8年になります。ここはとても気に入っているところですので、自分も努力するとともに、政府の力を借りてこの村のことをよくしていきたいと思います。とくにこの、住宅の賃貸業を通じて、村人の収入を増やし、生活レベルをどんどん高めていければいいなと思っているのです」
そう思いながら、呉さんは、周りの友達やレストランのお客さん、芸術区の人々に意見を聞き、賃貸住宅の位置づけ、つまりどういう人たち向けに貸し出すかということを決めました。呉さんの話です。
「けっこう時間をかけて調査をしました。建物の改造の度合いや借り手の所得の状況などいろいろ詳しく調べました。そして最後に、お客さんとして、中国文化に興味があり、わりと経済的に余裕のある人を狙うことにしました」
呉さんの提案は村民委員会からは支持を得たものの、初めての試みだったので、村の人々全てからは、受け入れられませんでした。それで呉さんは、自分の考えていることを、実際のものを使って皆に見てもらうため、この提案に賛成してくれた家を1軒、改造しました。伝統的で優雅な庭園のある建築様式に改造された住宅にお客さんがどんどん訪ねてきて、泊まりに来るのを見て、村民たちは安心しました。これについて、呉さんと国際結婚した奥さん、リサさんはこのように話しています。
「改造された家はどんなものになるか?私と主人がいくら説明しても、皆にはイメージがつかめませんでした。そこで実際にやってみました。そしてできあがったら、多くの村民が見に来ました。庭もあるし、廊下もあって、廊下の鴨居と柱に中国の古典絵画も書かれています。それに部屋もすごく住み心地がいいと、みんな分かってくれました」
すぐ隣にある798芸術区でも住宅の賃貸業は行われているのですが、そこと比べ、この村の家賃は3分の1くらいで済むことから、評判がとても良いということです。1年前やってきた黄さんはここで中華料理店を開いています。黄さんは店を開いてよかったと、次のように話しています。
「まったくの偶然で、この村を通りました。周りに芸術エリアがあり、昔の四合院も残されていて、交通も便利だし、空気もきれいだなと思ってすぐ気に入りました。そしてここで店をやることを決めました。今は、店もこの村も、最初に来たときより何倍も良くなったのですが、これからもっと良くなっていったらいいなと、楽しみにしています」
この村では、2010年末までに、301世帯全ての家を改造し、住宅の賃貸業とともに外食、宿泊業も行うことを目指しています。
北京の市内でも、四合院など昔の住宅が数多く残されていて、博物館やホテルなどとして保存、利用されているのです。皆さん、今度北京に来られる機会があったら、そういったところへおいでになるか、或いはお泊りになり、昔の北京の人の暮らしぶりを体験してみてはいかがでしょうか。(鵬)
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