もともと車にはあまり興味がなかったせいでしょうか。ここ数年、「奇瑞汽車(チェリー自動車)」という企業名をよく耳にしていたものの、とりたてて関心があったわけではありません。特に、中国自動車業は始まったばかり。「品質や乗り心地は、外国車のほうが良い」という評価は依然根強いものがあります。だから、街で「奇瑞」の車を見かけても、「値段の安さで勝負しているだけなんじゃないかしら」と思っていました。
しかし、今回、安徽省・蕪湖開発区にある「奇瑞」の生産工場を見学させてもらい、その考えが変わりました。きっかけは、同行していた若手中国人記者のひとことです。彼は、新車種の多目的ミニバンを見て、「そうそう、こういうのが欲しかったんだよー!」と、興奮気味に言ったのです。彼に、「なぜ、この車がいいの?」とたずねると、「だって、品質もいいし、性能も優れている。あと、今の若者の好みを良く分かってる感じがする」と、ベタ褒め。
その後北京に戻り、改めて街を見回してみると、「奇端」車に乗っている若者の多いこと、多いこと!「奇瑞」人気は、私の気づかないところで、徐々に高まっていたのですね・・・。
「奇端汽車」は、今から10年前の1997年、安徽省の国有投資会社10社が総額17.52億元(日本円で262.5億円)を投資して創立されました。資金不足のため、最初は農村部で細々とはじめましたが、4年後の2001年には、国内外市場に進出するまでになりました。販売台数は、2001年は2.8万台、2002年には5万台を突破し、国内自動車企業では第8位を記録しました。その後も、2005年には18.9万台で第7位に、2006年には30.52万台で第4位にランクイン。さらに今年は、3月期現在で業界トップを記録しています。なお、今年の販売台数は昨年より10万台増えることが予想され、業績は順調と言えるでしょう。
しかし、その道のりは、決して順風満帆ではありませんでした。責任者の方は、創立当時を振り返り、次のように話してくれました。
「自動車の世界は、莫大な資金と技術力が必要です。ですから、当初はみんな、大きなプレシャーを感じていましたよ」。
世界のトップ企業は100億元規模の資金を所有しているのに比べ、「奇瑞」の創業資金はたったの17億元。その差はあまりにも大きく、「この業界で躍進していくのは不可能だ」と言われたこともあるそうです。
しかし、スタッフは一丸となって立ち向かいました。特に技術開発の面では、人材募集に奔走しました。国内の専門家はもちろん、有名自動車企業「ベンツ」の定年退職者をはじめとする外国人専門家も招聘しました。なかには、日本人専門家もいたそうです。こうした優秀な人材が集まった開発チームで、「自主開発」をテーマに独自の車種を開発していったのです。
しかし、「奇端の車は壊れやすい」という噂を立てられるなど、当初、新規参入の「奇端」に対する世間のイメージはあまり良いものではなかったそうです。
今ではその実力を世間が認めてくれるようになり、実績も追いついてきました。しかし、成功を収めた今も、「気を緩めたらおしまいだ」という気持ちで、社員が一つになって日々努力しているということです。
自分の道を信じ、前に進む「奇瑞」の精神。ちなみにこの企業名、「大きな喜び」という意味が込められているそうです(中国語では、「奇」は「思いがけない、非常に」の意味。「瑞」は「めでたい」の意味)。今後も、「奇端」は躍進を続けながら、私たちに「大きな喜び」をもたらしてくれることでしょう。(文 朱丹陽)
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