長江(揚子江)大橋を渡ったあたりから、看板や標識に「徽州」という言葉を見かけるようになりました。この一帯は、昔から「徽州」と呼ばれていました。古くから、徽州の商人「徽商」は、その実力で全国的に知られていましたし、文化も独特なものがあります。特に、このあたりの料理は「徽菜」と呼ばれ、中国八大名菜のひとつとされています。
今日、地元の方々と一緒に食事をする機会がありました。実は、これまで、「徽菜」を食べたことがありませんでした。北京では、ピリカラの四川料理や甘味のある淮陽料理、あっさりした広東料理など、各地の料理を楽しめるレストランがたくさんあるのに、なぜか「徽菜」のレストランはあまり見かけたとがなかったからです。だから、「徽菜」が一体どんなものなのか、イメージが湧かなかったのが事実です。しかし、今回、地元のみなさんに一品一品紹介してもらい、なぜ「徽菜」が他の都市では食べられないのか、その理由が分かりました。
まず、ひとつめの理由は、旬の食材にこだわっているから。たとえば、「今が旬」と言えばタケノコがあります。今回、食卓に並んだ料理の中にも、タケノコ料理がありました。このあたりの山で採れた、今年出てきたばかりの若いタケノコを、塩漬けした豚肉と一緒に煮込んだ料理です。萌黄色のタケノコはサクサクとした歯ざわりで、豚肉の塩味がちょうど良く染み込んでいます。旬のものらしく、すがすがしさが口いっぱいに広がりました。北方生まれの私にとって、南方の料理は味付けがなんだか甘すぎて苦手だったのですが、この「徽菜」の料理は少し違う気がします。豚肉の塩味だけで、他には特に調味料を入れず、ただ煮込んだだけ。油で炒めているわけでもありません。ごくシンプルな調理法なのに、素材の持ち味が十分に引き出されていると思いました。
もうひとつ、旬と言えば、鶏のスープの中に、何やら黒い、海苔のようなものが入っていました。地元の方が勧めてくれたので食べてみると、今までに味わったことのない口の中いっぱいに風味が広がりました。聞けば、『石耳(石クラゲ)』というもので、このあたりの山深い場所で採れる珍しいもの。木耳(キクラゲ)は木に生えますが、この石耳(石クラゲ)はその名のとおり、石に生えるのだそうです。解毒作用や新陳代謝を高める効果があるので、美容や健康にもいいとのこと。これを干したものを料理に使うのですが、採れる量が少ないため、この周辺でしか手に入らないと言います。さらに、蕨をはじめ、山菜料理もいろいろありました。
このように、「徽菜」は、その時期にしか採れない旬の食材や、この一帯でしか採れない山菜などを多く使うため、なかなか他の街では食べられないのです。非常に貴重な料理ですよね。
他の特徴としては、豆腐料理が多いことが挙げられます。特に、豆腐を団子状に丸めた「豆腐タンゴスープ」が印象的でした。肉団子入りのスープはよく自分でも作って食べますが、豆腐団子スープは初めて見ました。豆腐を細かく砕いたものと、細く刻んだキノコのようなものを混ぜて丸めているのですが、柔らいのに形が崩れません。スープもあっさりしていて美味しかったです。このほか、「臭豆腐」や「毛豆腐」といった特色のある料理もありました。「臭豆腐」は黒くて、独特の臭みがあります。野菜を塩漬にしたときに出る汁に豆腐を入れて発酵させて作ります。ここ数年、北京の屋台でもよく見かけるようになったのですが、ずっと上海あたりの食べ物だと思っていました。ところが、本場はここ徽州だったのです。また、揚げ物の「毛豆腐」も、やはり豆腐を発酵させて作ったものです。揚げ物にしてもいいし、炒めものにしてもよいです。今回は揚げ物を食べましたが、酸味や辛味がほのかに感じられ、食欲を誘う料理でした。
北京に帰ったらもう食べられない、本場の「徽菜」。「太ってしまうかも・・・」と心配しながらも、パクパクと美味しくいただきました。(文 朱丹陽)
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