吉林省の取材旅行も後半です。本日は朝早くから長白山の特産めぐりです。白山市江源区では松花石という鉱石の産地です。この石は硯の材料として知られ、日本では松花江緑石と呼ばれています。川の流れを表すように、緑に白の縞模様が入っているのが特徴です。緑のほか黄色もあり、二色揃った石が価値が高いとされています。
中国では硯は筆、墨、紙とともに「四宝」と呼ばれ知識人の文房具として珍重されています。名産地として知られるのは、広東省の端硯、安徽省の歙硯、山東省の紅絲硯などで、残念ながら吉林省の松花石はそれほど注目されていません。上記の硯は1000年以上の歴史を持ってますが、吉林省の松花石はまだ300年の歴史しか持っていないのです。しかし、品質は素晴らしく、端硯や歙硯に匹敵すると言われています。
そもそもこの石を最初に認めたのは康熙帝でした。美しい緑色の石に魅了され、硯をつくらせてみたところ、これが非常に適していることがわかったのです。それから長白山松花石は清の歴代の皇帝に愛され、最盛期を迎えます。民間人が採掘することは禁じられ、宮廷への献上品として生産されたため、数が少なく非常に限定されたもので、外へ流出することはありませんでした。清時代にこの石が珍重されたのは産出地が、満州族が興った土地でもあったからだと言われています。
芸術的にも開花した松花石硯でしたが、清王朝の衰退とともにその栄華は過去のものとなってしまいました。しかし本当に価値あるものは後世へと伝えられていきます。1979年に地質学者が松花石を再び発見し、清時代の採掘場へとたどりついたのです。これ以降、松花石の再興が始まりました。今は、市場の拡大に力をいれ、海外の関連組織との提携や、博覧会にも積極的に出展しています。特に2008年以降は宣伝に加え、人材の育成に努めています。その実際の成果を「中国松花石博物館」で確かめてきました。
ずらりと並ぶ松花石
硯には興味があったので、ならばひとつ手に入れてみようなどと思っていましたが、それほど甘いものではありませんでした。1階の展示ホールにはずらりと奇岩と硯が並べられます。テーブルほどの大きさの硯もあり、文人たちによって作られてきた硯の世界の奥深さを感じました。すべらかな石の肌と職人たちの粋なデザインの組み合わせはため息がでます。しかしお値段も半端ではありません。5000円ぐらいのものもありますが、「確かにこれは5000円だな」と思うもので、「心からほしい」と思うものではなかったので泣く泣くあきらめました。
幅1メートルほどの9匹の龍が彫られた硯。 お値段なんと12万元。
北京ダックに見立てた石発見
博物館の2階は、松花石の歴史や清の皇帝たちの献上された硯の模造品が並んでいます。さすが献上された硯です。「まさにこれなら私も欲しい!」と思わず声を出してしまた逸品が並びます。
白い縞模様がくっきり。
これは手のひらにすっぽりと収まる ひょうたん型のミニ硯。これが欲しかった。
中国を旅行していて感じることがあります。日本にはお土産文化があり、だいたい携帯に便利な製品が販売されていますが、中国ではまずお土産は必ず買わなければならないものではありませんし、人に贈る場合、「大きい」、「数が多い」ことが良しとされていますので、かさばるものが多いのです。したがって、ここを訪れた記念に何か手ごろなものはないかと探しても見つからないことが多いのです。ここの硯もかなり大きくて重いものばかりでした。しかし、新時代に皇帝に献上されたのは、決して大きさにこだわったものではなく、細部にまで手を抜かない職人魂が感じられる緻密なものです。中国がいつから「大きさ」、「数」を重視するようになったのかはわかりませんが、この石の価値を知らしめるためにも、ぜひ海外旅行客向けのお土産の開発に力を入れてもらいたいと思います。(全くの個人的な視点で、申し分けありません。)
今回、ほんの少しだけ「石を愛でる」人の気持ちがわかったような気がします。地球の成り立ちの結晶のような美しい石を目の前にしたら、みなさんもきっと手を触れたくなるにちがいありません。
さて、もう1つ忘れてはならないのが長白山人参です。日本の方々には朝鮮人参のほうが馴染み深いかもしれません。今回、中国人参博物館を訪れてみて、またまた中国文化の奥深さを思い知らされました。
この博物館は撫松県にあります。ここは別名「中国人参の故郷」と呼ばれています。その昔は、野生の人参を掘る専門の人たちがいて、山へ入りまず山の神様へ挨拶をし、たくさん見つかるようにとお祈りを捧げました。そして人参を掘り当てた後、再び山の神様へお礼をしたそうです。それがやがて栽培されるようになり、地域産業へと成長してきたのです。
これは何を表す文字かわかりますか。
金の国で使用されていた文字、人参の参です。上の3つの○は人参の赤い花を表しています。
人参の頭に赤い糸が昔は「人参を見つけたらすぐに赤い糸を結べ。そうでないと、人参が消えてなくる」と言われていたそうです。宝物のような貴重な人参を見つけたあせりと喜びを感じるようなお話です。
人参の中にはなんと200年ものなどという人間より寿命の長いものもあるのです。これには驚きでした。
そして寿命もさることながら、その歴史もかなり長く戦国時代にはすでに薬として使用されていたそうです。
薬の功能も素晴らしいのですが、おもしろいのはその様々な形です。人間や、動物に見えるものもあり、形を競うコンテストも行われているそうで、博物館には受賞記念のトロフィーも飾られていました。
本日の取材は、いずれも長い歴史を持った中国文化です。発展の勢いがすさまじく、新しいものへと刷新を求める中国ですが、古来からの知恵を受け継ぎ、それをどのように現代のニーズにあったふさわしいものにしていけるかと試行錯誤している人たちの努力がここにもありました。地方を取材して、このような中国の新たな一面を発見できることが何よりの喜びです。そして知るたびに「中国は○○です」と一言では言えなくなるのです。他の国を本当の意味で理解するのは容易ではないことを思い知らされます。今回も学びの連続の旅となりました。(吉野綾子)
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