
北京五輪が終了してから12日が過ぎました。そして明日から、いよいよパラリンピックが始まります。その間も地下鉄の安全検査はずっと続いていましたが、オリンピックが大いに盛り上がっただけに、北京の人々もちょっと一息ついたところでした。ボランティアの人々の姿も、再び街のあちこちに見られるようになり、6日の開会式を前にスタンバイの状態になってきました。
私は北京で暮らすようになり、中国社会で生きてゆく中、オリンピック以上にパラリンピックに注目していました。それは、中国でのマスコミ報道を見たり、中国の人々と触れ合う中で感じる体験から、北京パラリンピックがとても盛り上がる大会になると思っているからです。私がそのように予想するのには次の3つの理由が挙げられます。
1 中国の人々の優しさと平等意識
北京生活の中でバスに乗るとよく目にするのは、お年寄りが乗り込むと、若い人がさっと席を譲る習慣です。中国ではお年寄りや弱者をいたわろうという光景はよく目にするもので、街を歩いていてもおじいちゃんおばあちゃんを大切にし、子供が大好きな中国の人々の優しさを感じることが多いです。また、社会主義国家の歴史の中から培われてきた平等の精神も強く、「オリンピックでしたことはすべて、パラリンピックでも同様にしよう」という心持ちが強くうかがえます。ボランティアや専用バスも五輪同様に配置され、もちろん安全チェックも厳しく行われるようです。パラリンピックは五輪よりも参加者が少ないので、数は縮小される部分もあると思いますが、パラリンピックを迎える北京の人々の心はオリンピックの時と同じものになると感じています。

2 マスコミの大きな扱い
中国ではテレビはすべて国営なので、番組の扱いの大きさは国で決められるためか、五輪が終了してからのテレビCMには、パラリンピック関連のものが圧倒的に増えました。私がよく目にするのは、目の見えない男子走り幅跳び選手のジャンプシーンです。これは、専門の陸上競技なので、特に興味深いのですが、コーチが踏み切り板横で拍手をしている方向へ向かって勢いよく選手がスタートし、スピードに乗った助走から力強い踏み切り、そして見事な空中姿勢で放物線を描いてゆきます。目が見えない暗闇の中で、すごいスピードで跳び出してゆく選手の恐怖感を想像しながら、私はいつも感動して見ています。
また、五輪ソングの「Everyone is No1」という歌に乗って流れる短編映画もなかなか素晴らしいものです。人気スターの劉徳華出演で、陸上競技で一流選手の郵便配達員が交通事故に遭い、片足を切断し、一時は自暴自棄になりながらも立ち直り、リハビリに集中し回復。同様な試練を受けた少年を励ましながら片足に義足をつけて競技会に出場するまでのストーリーが、わずか10分くらいで感動的に描かれています。バスや地下鉄で流れるニュースもパラリンピック関連が多く、大会が始まって以降もマスコミ報道はさらに増え、大会を大いに盛り上げるのではないかと思っています。

3 競技観戦者の多さ
私の中国人の友人で北京五輪を実際の競技場で見られた人は、ほとんどいませんでした。水立方や鳥の巣のあるオリンピック公園にも入場券が必要だったので、ほとんどの人はテレビで観戦するだけのようでした。オリンピックチケットは入手が難しく、特に鳥の巣で行われた陸上競技チケットは値段も中国の物価にしては高かったので、庶民にとって北京オリンピックはテレビで見るものだったようです。なので、五輪施設に入ってみたいという要望は強く、北京大学前のチケット売り場にも人が集まってきていて、パラリンピックには中国人の多くの入場者が予想されます。また、政府もパラリンピックの教育的な価値の大きさから、30万枚のチケットを子供達の見学用に提供するということです。チケットはスポンサーや外国人向けの割り当ても多いので、競技場がすべて満員になることは難しいかも知れませんが、北京パラリンピックは過去のパラリンピック以上に大観衆の声援に包まれて、競技運営されてゆくのではないかと私は予想しています。
というわけで、私はこれから始まる北京パラリンピックをとても楽しみにしています。
【プロフィール】
1957年生まれ 早稲田大学教育学部卒 筑波大学体育研究科大学院修士課程修了 専門スポーツは陸上競技 早稲田大学本庄高等学院 教諭 早稲田大学スポーツ科学部講師 2008年4月ー2009年3月 早稲田大学から北京大学への交換研究員
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