今日は久しぶりにテレビをつけてみました。オリンピック期間は毎日ずっと各競技の様子を映し出していたテレビの番組も、閉会式後1週間となり通常番組に戻っていました。そんな中、スポーツ専門チャンネルでは開会式の録画をまだ流していて、地元北京育ちで卓球に出場した張怡寧選手の宣誓シーンを見て、「張選手、優勝できてよかったなあ」と改めて思いながら、少し眺めてからチャンネルを回しました。
すると次のチャンネルでは、現在香港で行われている五輪メダリストの演技会の様子が生中継されていました。そこには、体操の楊威選手、李小鵬選手、飛び込みの郭晶晶選手をはじめ、卓球、バドミントン等北京五輪で大活躍した中国のメダリスト、スーパースター達が次々に映し出されていました。中継は香港市内の各会場で行われている演技会を、飛び込みプール、体操体育館、バドミントン場、卓球場と4元中継で結ぶ大掛かりなものでした。
どの演技会場も、憧れのスーパースターを一目見ようと満員のお客さんでいっぱい。その中で、注目を一身に浴びて交代で演技する選手達。彼らはみな、オリンピックとは違ったリラックスしたムードが感じられるものの、オリンピックそのままの中国代表チームのユニフォームを着て、それぞれの専門種目をこなしていました。体操選手は吊り輪の演技で力技を、飛び込み選手は飛び込みを、卓球やバドミントンの選手は選手同士が互いに打ち合う技を、きちんと披露していました。私はその演技会を見ながらとても感心し、驚きました。
体操の李小鵬選手などは、どこか痛そうで途中で演技をやめ、肩のあたりをさすりながら苦しそうな顔を見せましたが、楊威選手がもうちょっとがんばれというようなことを言って、改めて演技をしたりして、五輪後の疲れを引きずりながらの懸命な演技でした。私はテレビを見ながら、選手達にそこまでやらせなくても、と思いました。日本であれば、オリンピック直後のメダリストを迎える会は講演会や歓迎会が主だと思います。五輪後間もない疲れの残る選手達を、遠い香港に集めることは、スポンサーや出演料の関係もあるのかもしれませんが、さらに演技をさせようというような発想は、日本では考えられないことなのではないでしょうか。
香港の演技会の中継が終わりチャンネルを戻すと、開会式の録画番組はちょうどクライマックスの聖火のシーンになっていました。最終点火者の李寧氏が空中高く引き上げられ、鳥の巣の壁に写された絵巻の中を走る様子は何度見ても驚きです。
李寧氏は1984年のロスアンゼルス五輪の体操金メダリストで、中国の誇る英雄です。大会後自分の名前を冠した会社を起こし、現在は中国を代表するスポーツメーカーの最高責任者。日本であれば、M社かA社の創業社長です。その英雄に、巨大な鳥の巣スタジアムの天井で、年齢的にも危険を伴うようなパフォーマンスをさせる。私はこの演出に、中国人独特のダイナミズムと奇想天外な発想の迫力を改めて感じました。
北京五輪で輝いた中国の英雄達の残像は、吹き替えなしのアクション映画で活躍する香港出身の大スター、ジャッキー・チェンの姿を思い起こさせるもので、中国の中で英雄として生きてゆくことに必要なものを、私は垣間見たような気がしました。
【プロフィール】
1957年生まれ 早稲田大学教育学部卒 筑波大学体育研究科大学院修士課程修了 専門スポーツは陸上競技 早稲田大学本庄高等学院 教諭 早稲田大学スポーツ科学部講師 2008年4月ー2009年3月 早稲田大学から北京大学への交換研究員
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