「音楽の散歩道」、今週も、先週に引き続き、中国の少数民族、トン族の民謡をお届けしています。
トン族は、中国少数民族の一つで、2500年あまりの歴史を持っています。主に、貴州、湖南、広西と湖北の四つの省にまたがる山間部に住んでいます。トン族の民謡は、トン族の人々の心において、とても神聖なもので、かけがえのない精神的な糧とも考えられています。トン族には、「ご飯で身を養い、歌で心を滋養する」という言い方があります。歌はご飯と同様に大事だと考えられています。広西には、補応光さんという90代のお年寄りが住んでいます。彼は病気になってもあまり薬を飲まず、歌好きの仲間に来てもらって、一緒に民謡を歌うことで、病気を治すそうです。
トン族の民謡は、複数のパートで進行する多声音楽(ポリフォニー)です。つまり、複数の低い声の中で単独のひときわ高い声がリードする音楽です。三人以上がいなければ、こんな多声音楽(ポリフォニー)はできないのです。虫の鳴き声や水の音など、大自然の音を模倣して歌うのが、トン族民謡の大きな特徴であり、根源ともいえます。美しい自然や日ごろの仕事、愛、友情などがよく歌われ、人間と自然、人と人のつながりがよく表現されています。
トン族民族の歌い方やチーム編成も面白いんです。各村には年齢別で子供チーム、少年チーム、青年チーム、中年チームとお年寄りチームなどがあります。チームによってその役割ももちろん違います。子供チームは入門教育をうけ、少年チームは歌に関する全面的な訓練を受けます。、青年チームは主役であり、ほかの村と歌合戦をするという重要な役目を担っています。そして、中年とお年寄りチームは、新人の育成や文化の伝承などの使命を担っています。このため、トン族の民謡ははるかに芸術の範疇を越えたもので、民族の社会構造、婚姻関係、文化伝承および生活そのものの重要な構成部分といえましょう。
民謡より徳を磨き、人間を作るという伝統から、トン族の社会には互いに助け合う、和気あいあいとした雰囲気があります。穀物の倉庫や家畜小屋などはいずれも村の外に建てられますが、盗みもないので、見張る必要もありません。そして、苗族やヤオ族、チワン族、ブイ族、漢族などとも、仲良く付き合い、民族間の紛争や戦争などは一度も起こしたことがありません。ですから、トン族の民謡は、平和と友好を願うその心の声なのかもしれません。
「人間本来の姿」、「河の流れ」、「高山の歌」、「立春」、そして、「恋人の歌」。この五曲をじっくりご吟味ください。
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