このほど、中国の若手民謡歌手、雷佳さんが最新アルバム「中国56民族の歌」をリリースしました。このアルバムには、中国56の民族の代表的な歌、56曲が収めてあり、漢族を含む中国の56の民族の特色ある音楽を紹介しています。「音楽の散歩道」、今週から、このアルバムに収録されている中国の民謡を三回に分けてお伝えしたいと思います。

　まず、一曲目は、満族の民謡、「子守唄」です。満族は中国の少数民族の中で、人口が比較的多い民族の一つです。清の時代、中国全土とモンゴルを支配したことがあるので、その子孫たちは中国全土に散在しています。もちろん、民族の発祥地である中国東北部には今でも満族の人が多く住んでいて、遼寧省が最も多い省です。満族の民間音楽はとても豊かで、わかりやすい歌詞と簡潔なメロディの歌が多いです。

　さて、雷佳さんが出したこの新しいアルバム、「中国56民族の歌」には、中国56の民族に伝わっている代表的な民謡、56曲が収録されています。一民族ずつ一曲です。このアルバムは、企画から製作までおよそ3年間かかりました。取り上げられている作品はいずれも練りに練って、それぞれの民族からもっとも代表的なものを選んでいます。二曲目は、雷佳さんのアルバムから、チベット族の民謡「グーサンラ」をお届けします。

　チベット族は主に、世界一の高原、中国西部にあるチベット自治区や青海省、甘粛省、四川省、雲南省などで生活しています。大多数の人々が大乗仏教であるチベット仏教を信仰しています。標高4000m級のチベットの高原では、空は青々として、雲はとても白く、空気もきれいです。夜になると、手を伸ばせば、星に届くような感じです。よく澄んだ空の下、白と赤の色をうまく調和させたお寺が数百年も数千年も静かにたたずんでいます。「この世界における最後の浄土」と言われるように、チベットには人間の心を清めることが出来る神秘的なパワーがあるのではないかと、私は去年初めて行って、つくづく感じました。

　チベット族の人々は、男女を問わず、みんな歌も踊りも好きです。しかも驚くことに、チベットの人は誰もがきれいな声の持ち主です。スケールの大きいチベット高原では、伸びやかで高い歌が聞こえます。こんなチベット族の代表的な歌、「グーサンラ」は、家族が集う和やかな雰囲気を歌っています。

　曲の名前「グーサンラ」は、日本語に訳しますと、「お幸せに」という意味です。「グーサン」というのは、「幸福、幸せ」の意味で、ラは尊敬を表します。チベット語では、この「ラ」の使い方のように、敬語がとても発達しています。これは日本語と似ていますね。この歌は、「今日、みんなで一緒に集まって、お幸せに。歌を歌い、踊りを踊って、お幸せに。みんながめでたく、みんなお幸せに」と歌っています。

　歌手の雷佳さんは、中国中南部の湖南省、益陽市に生まれ、小さいころから湖南省の地方劇の薫陶を受けました。1997年、雷佳さんは中国音楽学院に入学し、民族声楽を勉強しました。雷佳さんはつやがあって透き通った声と、さわやかな歌い方で、聞く人を魅了しています。

　三曲目は、雷佳さんの新アルバムから、基諾（ジノー）族の民謡、「夜更けに」をお届けします。ジノー族の大部分は、雲南省の西双版納に住んでいます。 1979年に少数民族の認定を受けた新しい民族で、2008年の国勢調査では、人口はわずか2万1千人です。ジノー族の人々は歌や踊りが好きで、小さいころから伝統的な民謡の節を覚え、大人になったら、即興的に歌詞を考えながら、男女の間で歌のやり取りをします。伝統的なお祭りや重要な儀式では、ジノー族の人々は歌を歌ったり、踊りを踊ったりして徹夜で祝う風習があります。この「夜更けに」という歌は、ジノー族の恋歌です。歌の中では中国雲南省の民族楽器「葫芦糸（フルス）」の伴奏が非常に味わい深く、夜が更けて人が寝静まるころ、青年男女が密会する風景をメロディーに載せて表現しています。

　基諾族は太陽を崇拝し、衣服にも太陽の絵を刺繍しています。また、年長者を敬い、各村にはそれぞれの"卓巴"（村の父）と"卓生"（村の母）がいて、村のことを管理しています。

　ジノー族は男性も女性も大きなイヤリングを好んで身につけます。耳たぶにあけた穴の大きさは人間の勤勉さを象徴すると言われており、小さいころに穴をあけ、年をとるにつれてイヤリングを大きくして穴を大きくするという風習が残っています。

　「音楽の散歩道」、今週の番組では、若手歌手雷佳さんの新アルバム「中国56民族の歌」から、満族、チベット族とジノー族の歌、それぞれ一曲をお届けしました。来週も引き続き、少数民族の民謡を私と一緒にお聞きください。