もちろん、煮込み肉の味付け劉さんがする。これは皮付きの肉を適当な塊に切り、それを冷たい水で洗ったあと、鍋に水を入れて沸かし、かの肉の大きな塊を入れて、塩、肉桂、砂糖、生姜、酒と山椒のようなものを入れて煮た。しばらくして肉を取り出し、鍋に浮かんだ灰汁を取ってから、また、その煮汁で、肉を今度はとろ火で煮るという時間がかかる仕事である。それに火加減を見るのは難しい。
と、ある日の夕方、町の役人が屋敷の使いをよこし、明日にうまい煮込み肉が食いたいから作っていてくれと頼みに来た。そこで劉さんが煮込み肉を多めに作る用意をし、この日の夜も息子に火加減を見させることにした。
「息子や、いいか、煮込み肉はとろ火で煮てこそ、肉が柔らかくなり、味もしみこむんだ。しかし、絶対に煮すぎてはならん。それに焦げたりしてみろ、せっかくに肉が台無しになる。肉は高いんだぞ。いいか、しっかり火加減をみるんだぞ」
「わかったよ、とうさん。でも、眠いよ」
「なにをいう。お前はお昼に少し寝ただろう。いいか、寝てしまうんじゃないぞ。父さんは朝が早いからこれから少し寝ることにする」
「わかったよ。寝なきゃいいんだろ」
「じゃあな、しっかりみてろよ。火が消えそうになったら、そこにある薪を少しづつ足すんだぞ」
こうして劉さんは部屋に戻り、横になった。
こちら息子、父に言われたとおり、かまどを睨んでいたが、しばらくして火が消えそうになったので、薪を多めにくべてから、椅子にすわり、かまどをまた睨み始めた。そのうちに上まぶたと下まぶたがけんかし始め、頭もふらつき、とうとう居眠りを始めてしまった。もちろん、劉さんは朝が早く、疲れていたこともあり、とうに寝てしまっている。
それからどのぐらいたっただろう。東の空が明るくなり始め、劉さんがいつものとおりに起きた。さて、煮込み肉のほうは出来たかなとさっそく台所に来てみると、なんと息子は壁にもたれていびきをかきながら寝ており、肉はと鍋の蓋を開けると、肉汁が少し残っているだけで、肉の方は塊が崩れかけるまでになっていた。
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