これはいかんと、劉さんは鍋からそっと肉の塊を大きな掬いで取り出し、残った汁を肉にかけてから、少し味見してみようと思ったが、肉が柔らかすぎて箸でつまめないありさま。そこで息子をたたき起こして叱りつけた。
が、それに息子は渋い顔をするばかり。いくら叱っても仕方がないとあきらめた劉さんが、肉を冷ましてから大きな皿に載せて、風通しのよいところにおいた。もちろん、肉は高いし、いろいろと味付けし、時間をかけて作ったので捨ててしまうのはもったいないと思ったからである。その上で、この日はかの役人の使いがこの煮込み肉をとりに来ることになっている。どうしよう、どうしよう、何か方法はないものかを思ったが、どうしようもない。そこで、仕方なく、やわらかくなりすぎたこの煮込み肉をそのまま、役人の使いに渡すことにした。これを聞いた妻は大丈夫かねと心配したが、劉さんは、ため息ついて言う。
「もう間に合わないよ。じたばたしても仕方がない。息子のしたことだから・・。そうだな、お金はもらわずにもっていってもらおう。次は本当にうまい煮込み肉をお作りしますからといっておくしかない」
こうしてその日の午後、役人の使いが店に来た。
「おい!おやじ!昨日頼んでおいたものできてるだろうな」
「これはお使いご苦労さまです。実は、煮込み肉は作りましたが、少しやわらかすぎたかもしれません」
「なんだって?」
「いえ、食べられますが、いつもよりやわらかくできましたので、お役人さまのお口に合うかどうかわかりません」
「ということは?」
「ですから、お金の方は、お役人さまがうまいと思われてから頂きます」
「ふーん。面白いことを言うおやじだな。それなら、そうするか」
「では、そういうことでお願いいたします」
「じゃあ。肉を屋敷にもって帰るよ」
ということになり、劉さんは、肉を大事に包んで屋敷の使いに渡し、使いは帰っていった。もちろん、劉さんはこれで自分の商いも評判が悪くなる家で妻と一緒にがっかりしていた。
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