さて、こちら屋敷。使いがかの煮込み肉を持ち帰ったので、食いしん坊の役人はさっそく、それを薄く切らせて卓に運ばせた。
「うん?この肉はかなり柔らかそうじゃな」
「はい、旦那さま。店のおやじは、なんでも昨夜は肉をやわらかく作りすぎたとかで、もし、旦那さまのお口に合わなければ、お金は要らないと申しておりまする」
「なんと?面白いおやじじゃな。まあよいわ。わしの口に合うか合わないかは、食べてみなければわからんからのう」と箸を取ってつまみ、口に入れた。
「うん?うん!うん!これは皮まで柔らかく、味がよくしみていて、こってりしているようじゃが、かえってあっさりしている。うまい!うまい!」
役人はこの煮込み肉のうまさに感心し、なんと瞬く間に大皿に切り並べたものを半分以上も食べてしまった。
これを見ていたかの使いはびっくり。
「旦那さま、どうしたのでございます。今日はかなり肉をお召し上がりでございますね」
「おお。もちろんよ。よいか。いまから店に行って金を払ってこい!それから、これからは周に二回はこのような煮込み肉を屋敷に届けるよう頼みに行くのじゃ。」
ということになり、使いはさっそく店に行って金を劉さんに渡し、役人の注文を劉さんに告げた。
これに劉さんと妻は大喜び。こちらは、かの使いが肉を持って店に文句を言いにくるとばかり思っていたので、これをきいてはじめてそんなにうまかったのかと考えたが、実を言うと、朝起きて台所に入ったとき、鍋の中の肉は柔らかすぎて箸でつまめなかったし、あとで冷ましていくらか硬くなってからも、自分で味見はしていない。このことに気づいた劉さんは、もう一度同じように時間をかけて煮込み肉を作り、やわらかく煮あがった肉に残った汁をたっぷりかけて、十分さましてから、包丁で切って口に入れてみた。うん、たしかにうまい。
「そうだったのか!冷ませばいいのだ」と劉さんはそのときから肉の煮込む時間を長くし、味のほうでも工夫をこらした。
こうして劉さんの作る煮込み肉のおかげで店は大繁盛。まもなく、このうわさが、宮殿にまで伝わり、その美味しさが認められ、このときから劉さんの店「天福号」、特にこの店の煮込み肉、つまり「醤肘子」は都の名物となったわい。
え?劉さんの息子?それは本には書いてないので、はっきりわからん!!
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