次は「笑得好」という本から「うちの月」です。(粗月)
「うちの月」
付さんには、なんでも訳なしに謙遜して言う癖があった。
「付さん、あんたの文章はうまいね」
「いやいや、つまらん文章ですよ」
「付さん、あんたのうちの庭はすばらしいよ」
「いやいや、ただの庭、花や池があるだけのもの」
こういうつまらない答えが返ってくるので、人々も褒めたりするのは控えた。
と、ある日、付さんの父が七十の誕生日を迎えたので、その日は親戚や友人が付さんの屋敷に呼ばれ、宴が開かれた。
「うん、この料理はうまい。付さん、あんたは良い厨房人を抱えていますな」
「いやいや。たいしたことはない。この料理も食べられないことはないというほどでしょう」
「付さん、この酒はいけるね。長いことこんなうまい酒は飲んでいないよ」
「いやいや、つまらん酒のこと。我慢して飲んでくださいな」
こうして宴たけなわとなったが、その夜は満月が出ていた。
「付さん、ごらんなさい。いい月ですな。気持ちがいい」
「いやいや、あれも、うちのつまらん月にすぎません」
やれやれ!
そろそろ時間のようです。来週またお会いいたしましょう。
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