「まことでござるか?」
「わしはうそというものをつけん」
「そうでござるか」
「いいかな。その星がかわった石を大事にし、年に一度だけ出して拭くだけでけっこう」
「年に一度だけ?」
「いかにも。奥方だけにみせてもかまいませんな」
「そうでござるか」
「では、大事になされよ」
「もうお別れでござるか?」と楽雲鶴は言いながら、その石を大事に懐にしまいこんだ。
「そう」
「しかし、わたしはどうやって雲から降りるのでござる?」
「ああ、安心しなされ。あんたは落ちで死ぬようなことはござらん。黙って眼をつぶり、雲の下に飛びなされ」
「え?雲の下に飛ぶ降りるのでござるか?」
「心配ない。心配ない。大丈夫だからやってみなされ。そうしないとわしもこの雲を離れどこかへいってしまうので、あんたがそこでじっとしていると一人ぼっちなってしまいますぞ」
「こんなところで、それは困る」
「でござろう?ですから自分で飛び降りるしかありませんな」
「仕方がない。ではこれでお別れでござる。しかし、またあんたとはどこかで会えますかな。いくらか名残惜しいが」
「そうでござるが、残念なことにもうわしとはあうことはできんだろう」
「それは仕方がない。では、雷の神どの」
「なんじゃ?」
「さらば!」と楽雲鶴は目をつぶり、男の言うことを信用して雲から飛び降りた。すると自分の体はゆっくりと下に落ち始め、しばらくして地上についたような感じがしたので目を開けてみると、なんと自分の家の近くの広場にいるではないか。
「うわ!助かった。よかった、よかった」と楽雲鶴が叫んでいると、近くで自分の名を呼ぶ女子の声がした。妻であった。
「おお!ここだ、ここだ!」
「なんですか!どこへ行っていたのですか?こんな夜に。人を心配させないでくださいよ」
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