「実は、あんたを助けようとおもってな。久しぶりに飯をご馳走になりましたからね」
「そんなことは忘れてくださいな」
「いやいや。あんたはこれからひどい目にあわれるかもしれん。わしがついていれば大丈夫じゃ」
「え?本当でござるか?」
「わしはうそをつくことは知らん」
「では、一緒に行きましょう」
ということになり、楽雲鶴は男を連れて行くことにした。こうしてその夜は一緒に宿に泊まり、夕餉を取ったが、男は飯を食わない。
「いや。わしは一ヶ月に二度も飯を食えば十分なのでござる」
これを聞いた楽雲鶴はあきれたが仕方がない。そして翌朝に宿を出て大きな川の岸辺にきた。実は商いのため早くからここに用意してあった荷物を舟である所に運ぶため、この川岸に来たのである。
さて、荷物を載せた船は動き出したが、暫くして風が吹き出し、そのうちに大風となり船が大きく揺れ始め、船に載せてあった荷物が次々と水に落ちていく。これに慌てた楽雲鶴を見て男はなんと高波に飛び込んだので楽雲鶴はびっくり。
「いったい何を考えているんだ!死ぬつもりか!」と叫んでいると、なんと風はうそのように止み、波もおさまった。そしてかの男が水面に顔を出すと、また水にもぐり、どこからか何も積んでない船を引いてきて楽雲鶴と船頭をその船に移し、自分は水にもぐってこれまで落ちた荷物を一つ一つ探し出し最初の船に積み上げたではないか。これをみた楽雲鶴は大いに感激し男に礼を言う。
「これは、これは、なんと言って感謝したらよいのか」
「なになに。あんたは空腹で困っていたわしにものを食べさせ命を助けてくれたんだ。これぐらいなんでもないこと」
このとき、楽雲鶴はこの男は只者ではないと感じた。
こうして荷物を積みなおした船はまた動き出したが、かの男は、自分はここで別れると言い出す。そこで楽雲鶴は何とか男に一緒についてくるよう勧めた。すると男は黙ってうなずいたので喜んだ楽雲鶴は、男を家族のようにあつかい、商いが終わったあとは儲けた金をおかしな顔をする男にもたせ、自分の家に帰ってきた。そして楽雲鶴は自分の兄のように男をもてなす。男は普段は飯を食わないが、飯を食うとなるとかなり食べ、妻を驚かせた。
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